木蘭

ドンバスの木蘭のレビュー・感想・評価

ドンバス(2018年製作の映画)
3.9
 ドキュメンタリー系映画で著名なロズニツァ監督が、その手法を遺憾なく発揮した悪意在るグロテスクな寓話。
 ある種の東欧的なパワー溢れ、ダレる事無く突っ走るタイプの佳作・・・なのだが、今観て評価するのは非常に難しい作品でもあった。

 監督の作品は特集上映した『アウステルリッツ』『粛正裁判』『国葬』しか観た事が無いが、それらは在る空間と時間を切り取って観客に見せる"観察系"や、既存の記録映画を再構築した"アーカイヴァル”と呼ばれるドキュメンタリー映画で、事実を映しながらもそこには作家の明確な意図が様々な手法で色づけされた作品・・・ドキュメンタリーとはそういう物・・・だ。
 しかも上記3作品は「群衆」をテーマにしたとされるが、素朴で小さな愚かさが寄り集まって生み出す大きな悲劇や問題を告発する様な作品で、監督のインテリ的な大衆に対する冷ややかな眼差しを感じてしまう。そもそも観察というのはそういう物だけど。

 そんな作品群の延長にある劇映画で、ドキュメンタリーという制約から解き放たれた映像作家が、実際にドンバスで起きたとされる事件を選び取り、切り貼りし、ある種の観察ドラマである群像劇として示せば・・・ここまで暴力的でカリカチュア的な描写をするとは思わなかったけど・・・辛辣な物語になるのは想像出来る。
 ただ、それを観察させられた第三者である外国人が感じるのは、ドンバス・・・特に、物語の大半が繰り広げられる分離主義者とロシアが統治する人民共和国と国民への嫌悪感。
 人民共和国側が多数を占める(市井の人々も多い)登場人物の姿を、ことさらに滑稽に猥雑に描いているのだから悪意を感じる。ウクライナ側の腐敗や境界を行き来する怪しげなブローカーが描かれたとしてもだ。

 コスモポリタンを自称する監督ながらウクライナ人、ウクライナ映画としての立ち位置は明確なので、プロパガンダ映画のそしりを受けても仕方が無い。
 B級ジャンル映画ならば簡単に消費できるのだが、物凄く出来の良い作品だからこそ、やっかいなのだ。
 10年以上経って見返すと、貴重な空気を写し撮った名作として評価出来るかも知れないが、現状では無邪気に観察出来ずに複雑な気持ちになった。
 出来は良いんだ、出来は・・・。
木蘭

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