うしぱんだ

ドンバスのうしぱんだのレビュー・感想・評価

ドンバス(2018年製作の映画)
4.1
2014年から親ロシア派の支配下に置かれるウクライナのドンバス地域。この作品は、実際にドンバスで起きたとされる出来事を基にしたオムニバスの物語。
日本で、今公開されたのは、もちろんウクライナが現在戦場になっているからだ。

13のエピソードの中で印象深いのは、拘束されたウクライナ兵が街頭にさらされる話。実際に家族をウクライナ側に殺された女性が怒りをぶつけ、若者は楽しいイベントに参加するように兵士をなぶり、周囲の人々をたきつける。市民の間に憎しみと侮蔑が盛り上がって、捕虜を殺しそうになる。これはフィクションだが、戦時中の日本でもアメリカ兵を市民がリンチして殺した事件があったはず。いったん生まれた憎しみは戦争が終わっても消えないだろうと思ったり、案外日本人はアメリカの占領を受け入れてマッカーサーに御手紙を書いたりもしたよな、と思いだしたりもしたけれど。

もう一つ「国策結婚式」の話。神様でなく、国(ノヴォロシア)に誓う結婚宣誓式というものらしいが(会場に神様はいない)、新婦はじめ参加者一同ノリノリで、はじめは仕切っていた司会者も、彼女たちの勢いに調子が狂わされていく。上から押し付けられたのでなく、確実に楽しみ、権力におもねるのでなくそれを笠に着て己の欲望を解放していくような力を感じて、怖かった。
来賓の軍人のスピーチは簡潔で結構上手で、この場でなければ感動してしまったかもしれない。
ついでに言うと、司会者役の人、濱田マリさんに似てた。

BGMがなく、淡々としたつくり。ノンフィクションではないけれど、あったかもしれない怖い話。