いののん

ジョーカーのいののんのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
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これはまるでアタシの棲む世界の話だ。心でどんなに泣いていたって、それは人には届かないし、理解はしてもらえない。そしてアタシも自分のことに精一杯で、きっと誰かの悲しみを素通りさせて生きている。悲しみと絶望と黒い涙と赤い血。オレンジがこんなに孤独で淋しい色だったとは。アーサー(ホアキン)の言葉は、目の前にいる人には全く届かない言葉で、目の前の人に向けては語っていない言葉のようにも思える。アーサー(ホアキン)は自分自身と、尽きぬ事のない対話を永遠に繰り返す。自分が自分が、の世界。アーサーっていったら王なのによぉっ。そしてこれは、ダークナイトよりもダーク。例えばダークナイトには、価値観が揺さぶられるような問いかけがあって、かすかな希望もあった。でも、今作の世界には、価値観の揺さぶりなど、何処にもない。そんな問いなど成立しない。孤独はとうに行き場をなくして、孤独は何処に進んでいったらよいのかわからなくなっちゃって、孤独が迷子になって泣いている。「JOKE」に「R」がひとつ足されたら、どうしてこんなにも淋しいんだろう。ちっとも笑えない。たくさんのJOKERが生まれても、なんの繋がりもない世界。それがアタシの棲む世界なんだろうか。
きわめてミニマムな悪。小さな世界。
ラスト、男は、白い繭に包まれた空気さなぎのようにも見えた。(きっといつもの思い込み)


チェロとかビオラとかの弦楽器なんだか、それとも管楽器だったのか、そんなことさえもアタシはさっぱりわからないんだけど、映画で流れたメロディが、帰り道、アタシの頭のなかにも流れ続けた。痛い。黒い涙を流して、泣きたいけど泣けない。
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