ともすれば自分も…という恐怖と同時に、抑圧を全てぶっ放す気持ち良さがある映画。しかしそのあとには漠然としたシニシズムと空虚な美しさしか残らず、観賞後は不穏な後を引く。
「善悪も、悲劇か喜劇かも、主観でしかない」と倫理になど目もくれず、大手を振って言ってのけてしまうように、孤独な弱者が否が応でも陥ってしまう認識の歪みのようなものが映画全面に滲み出ていた。
『モダン・タイムズ』『タクシードライバー』『キング・オブ・コメディ』を大胆に取り入れたことでサブテキストとして物語に力を与えることに成功しており、引用の仕方としてこれ以上ない味付けとなっていた。
このような傑作が生まれることへの喜びと、ジョーカーを産んでしまう社会への怒りや絶望に、感情がおかしくなってしまう。
階段で踊るシーンは近年の映画史のアイコンと言っても差し支えないだろう。