よか

ジョーカーのよかのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
2.2

このレビューはネタバレを含みます


よかった。確かによかった。
圧巻のシネマトグラフィと物語に緊張感を駆り立てる音楽。
ホアキンフェニックスの演技はまさに狂演って感じで、ニューシネマ的な脚本も全部噛み合ってて確かに傑作たりえるなと思った。
思ったけど、同時に「これべつにジョーカーじゃなくてもよくない?」というのが率直な意見。多分私はヒースレジャーのジョーカーを思ってた以上に信仰していたんだな...という感じ...

貧困や介護、身体障害等、残酷なまでに身近な問題をリアルに主人公に反映させたあたりは、アメコミ映画としては画期的なのかもしれない。実際、現代に通ずる社会問題でもあるし、その分観客が感情移入できるのもわかる。
けど、そもそも"ジョーカー"に感情移入できるってどうなの?他を寄せ付けないゴッサムシティのスーパーヴィランで、常識を逸脱した犯罪者であるはずなのに。その犯罪者の思考がトレースできてる時点でアーサーはジョーカーではないなと思ってしまった。

歪んだ社会構造や抑圧を受ける弱者の声を無視し続けるといつか爆発する、のは確かにそう。
でも生まれるのはアーサーのような犯罪者であってジョーカーではないような気がする。
実際彼は作中で凶悪な殺人者となってゆくけれども、その殺人の全ては己のストレスや復讐心からの殺意であって“純然たる悪意”というよりかは醜悪さが勝る。人々の悪意の爆発、ラストの暴動だって、結局はアーサーの手の届かぬ範囲で勝手に膨れ上がった悪意であって、アーサーが先導し火をつけたわけではない。
彼の笑いは引き起こした殺人や己の人生に対するものであって、社会や人間を嘲笑するには器が足りないと感じた。

こういう見方をすると一気に醜悪さが目立つような気がするけど、作品を通して徹底的に陰鬱でありながらも、醜悪でなくむしろ爽快感があり羨望的ですらあるのは、一貫して撮り方が主観的だからだろうなとも思った。
引きの視点が一切ない。主人公と観客が一体化するように"作られてる"。
そういった意味では世間の評判や感想も納得だし、緻密に作り上げられた素晴らしい映画だなと思いました、まる
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