コウ

ジョーカーのコウのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

“本当の悪は笑顔の中にある”
悪のカリスマJOKERがいかにして誕生したのか。
その半生を描いた悲劇であり喜劇の物語。
DC作品ですが、DCEUを始めどの過去作とも世界観を共有していません。
完全に独立した世界線のジョーカーです。

多くの方が絶賛するように、とにかくホアキン・フェニックスの演技が本当に素晴らしい!アーサーという一人の男の悲哀と惨状、そしてジョーカーとして生きる事を決めてからの彼の変化を、それはもう見事に演じています。

ジョーカーとして生きる事を決定付けた、運命の日。
彼は自分が幼少期に母の恋人に虐待を受けており、精神病を患っていた母がそれを黙認していた事実を知ります。
その際のアーサーの笑いはこれまでの発作とは違い、彼の心情を強く表したものに感じます。まるで、母を唯一の家族として拠り所にしていた己の人生を嘲笑うかのような。
泣きながら力なく笑う彼の心境を思うと、胸が締め付けられます。

その後、傷心のアーサーはソフィーの部屋を訪れますが、ここで彼女との全ては彼の妄想だったという事がはっきりと示されます。
頭を撃ち抜くジェスチャーは、妄想を抱き己を慰めていたこれまでの彼自身を撃ち抜くものだったのでしょうか。
惨めで弱い自分とはここで決別するという覚悟の現れを感じます。

病室で、アーサーは母をその手にかけます。
”幸せなど一度もなかった” “人生は悲劇ではなく喜劇” だと言う彼が、もう既にジョーカーと化している事が分かるシーンです。
真実を知ってからのアーサーの変化が恐ろしくも説得力があり、ホアキン・フェニックスの演技力の素晴らしさに驚かされます。
同一人物とは思えない程の圧巻の演技力です。

母の死後、自宅で独りピエロのメイクを施しながら見る写真。
その裏には母へのメッセージが書かれています。
“Love your smile. TW “
TWがトーマス・ウェインである事は明らかです。
しかし彼はどうでもいいと言わんばかりに雑な扱いで投げ捨てます。
ジョーカーとして生まれ変わった彼にとっては、そんな事はもはや取るに足らない事実なのでしょう。

ゴッサムシティに蔓延る貧困や格差は深刻です。
精神病や脳機能障害を患う人間にとっては暮らしやすい環境ではありません。また、彼の日記を見るとまともな教育を受けていない事も早々に分かります。
アーサーとウェイン、またはアーサーとブルースの対比はゴッサム社会の縮図と言えます。

燃えるゴッサム。観衆の中で踊るJOKER。
このシーンの美しさと言ったら…。
流れる血で上がる口角を描く彼は、歓声を浴びて君臨します。
そのまま精神病棟でのシーンに変わりますが、ここで観客は気が付きます。
殺人は? マレー・フランクリンショーは?
一体どこまでがアーサーの妄想で、何が真実だったのか?
“ジョークを思いついた”という彼のジョークとは一体、何を指しているのか?
最初から最後まで、全ては彼のジョーク(喜劇)であったのか?

ラストで彼は口ずさみます。
“That’s Life.”
観る者の主観によって物語は悲劇にも喜劇にもなり得る。
それこそが人生なのだ、と。

血濡れた足で廊下を歩き、明るい光の中で踊り、逃げ回るアーサー。
その惚けた様子は正に喜劇です。
悲愴なこれまでのストーリーは全て単なる喜劇に過ぎないのだと言わんばかりのエンド。

素晴らしい映画です。
コウ

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