mitz

ジョーカーのmitzのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0
DCコミック代表作「バットマン」に登場する悪役ジョーカーが誕生するまでの物語。
コメディアンを目指しながら母親と2人で貧しい生活を送るアーサー。母の教えを守り、不自然でも笑顔を絶やさず、「人生は悲劇」と解釈し自我を懸命に抑えながら社会との関わりを模索します。結論から言えばアーサーは善人であり、正しく生きようとしても、弱者が虐げられ差別を助長する社会がそれを阻む構造こそ、現代社会に対する警鐘です。
そして道を踏み外し、狂えば狂うほど徐々に人間味を増し泰然自若と化していく過程を上映時間たっぷり惜しみなく表現されています。階段を降りながら傀儡のように不気味に踊る姿は映画史に残るワンシーンになるでしょう。
この作品の最大の魅力は、アーサーが「人生を喜劇に変えるため」ジョーカーとなったことで街中に模倣するピエロが溢れ、秩序が崩壊することに対して本人の意図がないことです。社会に迫害されていたアーサーが、ジョーカーとして支持者を得、満たされることがなかった承認欲求に高揚感を覚えるまでのラストシーンは異常なほど美しいです。
そしてそれらのカタストロフィを引き起こした根源が(後にバットマンとなるブルース・ウェインの父親である)トーマス・ウェイン知事であり、今作ではその振る舞いがまるでトランプ大統領のように演出されているのも物語に意味を与えています。ゴッサムシティとはもはや架空都市ではないのかも知れません。
過去にこれまでコミカルにもシリアスにも描かれてきた「ジョーカー」というキャラクターをひとりの生身の人間として演じたホアキン・フェニックスの存在感は凄まじく、ワンシーンワンシーンが焼き付いています。

映画に求めるモノの全てが詰まった★10のベストムービー。
mitz

mitz