たぼ

ジョーカーのたぼのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.5
素晴らしい、の一言に尽きる。

スコセッシとデニーロの名作キングオブコメディ、タクシー・ドライバーのオマージュはもちろん
何よりも特筆すべきはホアキンの、“アーサー”という役柄に成り切った飽くなき俳優魂と演技力。

金獅子賞を捥ぎ取ったのも頷ける程の凄まじい作品。

元来の設定はバットマンの宿敵、ジョーカーという悪役であり
最近では“ヴィラン”と呼ばれる存在ではあるものだが
この作品はそれをより深く掘り下げ、この世の“負の部分”、言ってしまえば我々人間が持つ、それこそ形容し難いおぞましい陰湿なものー
エゴ、弱い者虐め、社会から相手にされない弱者、、
歴史が進むにつれ、拡大してゆく資本主義社会の産んだ“膿”にスポットライトを当てたのがまさしくこのJOKERなのである。

アーサーは善き人でありただただ“普通の人生”を送りたかったのだとは思うが
彼を産んだ両親、そして環境、彼自身が持つ疾患など、様々な苦しみ、しがらみ、苦痛が臨界突破し“弱き人間”から、“狂える道化師”へと変貌を遂げた。

ダークナイトでも、ヒース・レジャー演じるジョーカーがバットマンに「お前と俺はコインの表裏なのだよ」というような台詞を吐いたシーンがあった記憶があるが、戦慄するその真の理由が本作にて明かされる。

個人的見解になるが、バットマンというヒーローも、ジョーカーというヴィランも、結局のところ、ただの「善と悪」という言葉だけでは纏められない
深く掘り下げ、よくよく観察してみるとやはり全ての元凶は“人間が持つエゴ”そのものであり、今やヒーローと呼ばれているバットマンも、成るべくしてなったヴィラン・ジョーカーも、“人間のエゴによる犠牲者”なのだ。

そして、ストーリーはフィクションのそれではあるが細かな設定の方はリアリティ路線に徹底され
その辺りは現実社会でも起こり得る内容であり
「奴隷は持たざる者。猶予のない虐げられし者。その何も持たぬ劣悪な環境であるがゆえに王を撃つのだ。持たざる者の捨て身の怒りが一番恐い」
という一句の通り、我々もまた、他人事ではない。

この地球上の生命あるものの中で、最も醜く、罪深い生き物―
それは「人間」であることに間違い無いだろう。
この映画はそれを鮮明に体現した。


あの時、構ってやり、ほんのちょっとでも優しい言葉を掛けてあげることができたなら
希代の怪物の誕生は無かったかも知れない

だが哀しきかな、我々人間はこれまでも彼のような怪物を生み出して来たし
これからも変わらず彼のような人間は生まれてくるのだろう

これは我々人間が生み出した、逃れることのできぬ業であり
運命であり、宿命なのだ。
たぼ

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