シネマスナイパーF

ジョーカーのシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
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俺はここにいる
見て見ぬ振りをするな
笑わせたいが笑われるのは違う
なぜ無下にする?
それなら俺は、お前らを笑い飛ばす
お前らは気づく、俺の存在は笑い事ではないと

行き過ぎた笑いは時に怒りを呼び、恐怖と笑いは紙一重
真剣にジョーカーを描きなおすこと、それは無意識のうちに世界のどこかを映し出すことになってしまう
彼がある一時の社会の問題を抱えるのではなく、「人間社会」を見ているからかもしれない

負け犬が一矢報いる映画って、共感してもらえないことに共感して主人公を救った気になれるんですよね
俺はこいつらのこと理解してあげられるって
でも、半端に分かった気でいるとまたウェインのように見下しかねないし、捉え方を間違えると暴走に同調するテロリズム賛歌に走りかねない

今回のジョーカーは、正直感情移入の余地がありすぎて我々の理解の範疇を超えないため、何を考えているのか分からないのに我々の生き方の本質を問いかけてくる不気味さ、ゆえのカリスマ性というキャラクターとしての魅力はぶっちゃけかなり薄くなった
そのうえ英雄視までされているので、やっぱりちょっと違うなこれっていう違和感が強い
その点、やはりダークナイトのジョーカーは特別なままだとは思う
ただ、理解できる相手だからこそ、彼に対してどういう気持ちを持つのかが重要になってくるし、どんな気持ちを持つにしろ人としての善意という点では危険なラインに立つことにはなる
安く浅はかな善意で語られる倫理観を俺は許さないと
彼を見てしまった以上、もう後戻りはできない
その点これは間違いなく立派なジョーカーの映画

表層的なリッチさを取り繕って足元へは優しい言葉を投げかけるだけの名ばかりの慈善や福祉の被害者という側面をアーサーに全て背負わせたことで、多くの人々の心に少なくない影響を与えることは間違いない
ヒューマンドラマとして非常に丁寧で重苦しく、体調が悪い時に観ると下手したら悪化しかねないぐらい暗い話だから

デニーロの起用はキングオブコメディはもちろんそうですけど、もう少し大きく見ればアメリカンニューシネマの文脈が大きいかな
社会的弱者に"させられた"人間の暴走
贅沢さは鳴りを潜め、怒りと諦観が世間を支配していくという
正直今の時代にシネコンでかかるような内容の映画ではないな


ものすごくテンションが上がり、ものすごくテンションが下がる映画だった