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ジョーカーのpikaのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.5
見ている間何度も頭の中にヒッチコックが出てきて『たかが映画じゃないか』と言っていた。
DC好き、トッド・フィリップス『ハングオーバー』が超苦手、ホアキン好き、予告惹かれずで期待値ぐちゃぐちゃなまま見に行ったら凄く良かった。賛否が凄いことになっているけど私はアリ派。
妄想幻想描写映画はツボなので成功しているとそれだけでテンション上がります。

手段が危険ではあるけど価値観の開放映画として見ると非常に素晴らしい映画だと思う。だから価値観の定まらない未熟な10代の子供たちに見せることは危険だと言われているのだろう。もちろんそれぞれだと思うが。誤解を受けそうな危うさはある。その部分をアメコミ映画をベースに否が応でもフィクションとして意識させたところは上手いと思う。その点を嫌悪している人もたくさんいたり、フィクションとは何か、この現実世界と思われる部分にもフィクションはゴロゴロと転がっていてその線引きは曖昧だ、など作品を越えた問いかけにも発展していることも面白い。

型にはめようとする社会は型にハマらなければならないと思い込む価値観の集合体であるという指摘。知的生物の否定みたいな、動物的な衝動と解放感に満ちた展開はストレート過ぎるしビジュアルのイメージも強烈で、こんな映画が作られていいのかと不安になる面もあるけどそもそも映画はこうでなければならないなどという型なんてものはないし、まさにそれを言ってる映画でもあるし、かなりチート的ないやらしさはあるけど存在価値は十分にある。なにより単純に面白い。
解放されたとき、可能性を見たときに何をするのかは人それぞれ。映画に影響されることや周りに迎合することは面白くないところでもみんなが笑っているから笑ってしまうのと同じことだ。
富裕層も貧困層も同じことをしているという指摘も面白い。
黙って普通にしていろと、特異であることで周りの目を気にして生きなければならない生きづらさ、その原因が自分のせいではないと気づいたときに責任の所在を変えたということなのか。迎合して生きる普通になれないことは自分のせいではない。自分が狂っているのか世間が狂っているのか。

音楽が鳴りすぎデカ過ぎ問題もスコセッシからの引用か、ニューシネマ諸作品やスコセッシからの引用が散りばめられまくられているという点、示唆ではなく映像でわざわざ繰り返して説明をしたり観客のことを信用していないのかってくらい説明が丁寧すぎる点でわかりやすく処理しているのは、監督の力量なのかギリギリのところまで踏み込んだ描写が誤解されないようにするための配慮か。
誰もが皆引用映画を見ているわけでもないし、こういう映画を初めて見た人も多くいるだろうし、いい意味で古参の映画ファンやシネフィルにそっぽを向かれても構わないと覚悟をし、未来を生きる若者たちに向けて間違った解釈をされないよう注力したのかもしれない。
センセーショナルな衝撃と配慮と映画の読解力を鍛えるための新鮮さを見事に融合させているのかも。凄いよ。名作だって言ってもニューシネマなんて若い人はほとんど見ないし、でも似たようなことをすると映画ファンから喧々囂々でしょう。上手い下手とかよりもその姿勢がカッコいいし粋だなと思う。ある面で映画の可能性を見れた作品でもあった。
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