しめちく

ジョーカーのしめちくのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

※めちゃくちゃ長いです


観終わったあとに思ったのが、日本版ポスターの煽り文句として、「本当の悪は笑顔の中にある」とあるのですが、これは「本当の悪」と言っていいのか?ということでした。

今作は、アーサーというひとりの人間がなぜ悪のカリスマ・JOKERと呼ばれるようになったのか、といういわゆるビギンズ的作品です。
今作を観るに、精神的な問題を抱え自分を抑圧しながら生きてきた男が、自分と接する周りへの不満の積み重ね、裏切られたという気持ちから少しずつ「本当の自分」を解放していき、自分の思いとは関係なく神格化されていく(それが自己肯定に繋っていく)様が描いてあります。
つまりは、なぜああなったかが彼の中で明確にあるわけで、ただの快楽殺人を犯すような人物ではないのです。(実際ゲイリーは殺さなかった)
生まれながらの悪ならばともかく、明確な理由があるのに「本当の悪」とは?

それはさておき、2回鑑賞したのですが、観れば観るほどなにが真実なのかがわからない作品です。なので、ひとつの答えが欲しい!という方には向いてないかなと。人によってあらゆる見方・考察が出来る(というかせざるを得ない)ので、それが好きな方にとってはめちゃくちゃ深い。

いろんな方の考察・感想を読み漁っていますが、未だ
①フレック家の家計問題
②弾数の多さ
で納得いくものがわたしの中で出ていません…

第三者の目線で語られるものは真実だとして、アーサー視点で描かれるものがどこから真実でどこからが妄想なのか。
その辺は監督もいろんな見方ができるようにと線引きはしてないようなので置いておいて、上記の2点はなにか答えがあってもいいように思うのです。

①に関しては、鑑賞済みの方の感想を見て知ったのですが、アメリカには日本の四畳一間のような狭い作りの家はなく、あのような広さなら裕福そうに見えるけれどその実治安がめちゃくちゃ悪い、騒音、虫が湧くなどの理由で家賃が安いとのこと…
なので家が広い点については納得したのですが、それにしても人前に出るときのあのスーツ、そして靴。足元なんて1番身なりが出るところなのに、彼は一張羅とも言える物を何着か持っています。そしてタバコ。嗜好品なので、いつの時代も高いと思うのですが、どのシーンでも大体吸っているヘビースモーカー。
痩せこけているし、アーサー自身が物を食べるシーンはないにせよ、あれだけダッシュできるのです。なにかしらは摂取しているはず。
となればどこからお金が…?
友人が発見したのですが、日記をつけている彼の机の上にハロルドという人からの手紙が。ハロルドとは一体…その人が支援してくれている人?

②についてですが、家で誤って1発発砲、地下鉄で証券マンを殺す際に8発以上発砲、マレーを殺す際に1発発砲。どう考えても装弾数がおかしいのです。仮に途中で弾を購入し込め直したんだとしても、一回の発砲数がやはりおかしい。そしてやはりそのお金はどこから?ということになる。
ちなみに自殺をする真似をする時は入っていません。

この辺ずっと堂々巡りです…
これらも全てアーサーの妄想なんだとしたら良いように補填されているだけなんでしょうが、あんな苦しい妄想をするでしょうか。彼が妄想したとき、内容はすべて彼の都合の良いように作られています。なのでこの辺は真実なのではないかと思っているのですが……
どなたかご意見ありましたら教えてください…

途中までわりかし普通に観ていたのですが(ここまで言っておきながら)、アーサーが正装し陽光を背中に浴びながら階段を降りるシーンで涙が…
あの長い長い階段は、彼の人生の辛さを象徴するものだったように思うのです。
序盤で出てきたときは、下から数えた方が早い段数を彼は足を引きずりながら登っていました。その次に出てきたときは、階段の中腹〜上段に向けて登っていた。三回目に出てきたときが、上記のシーンだったのです。
証券マンを殺し、世界に自分という存在がいるのだと認識した。母を殺し、自分を悩ませる存在が消えた。彼の中でなにかしらの折り合いがついたのです。
それからの彼はキレッキレです。引きずっていた足はどこへやら、電車内で警察を撒き、リンチされている様を見る彼の立ち姿。完璧です。完璧すぎる……

批評も多く見受けられましたが、わたしはこの作品に触れることが出来てよかったと思いました。なんならもっと観たい。
ラストがコメディで終わるところも最高です。
しめちく

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