Few

にっぽん昆虫記のFewのネタバレレビュー・内容・結末

にっぽん昆虫記(1963年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます



何だこのタイトル、だいじょうぶか?
と思って観てみたら、面白かった。
めっちゃ冷酷なムツゴロウさんが映画撮ったような感じで。もっと早く観ておけばよかった。やっぱり古典映画こそ最高。

写真、曲、カメラワーク、ショット、左幸子の滑稽な独白、映画ってこんなに自由だったんだ!と思う。
あんな惨めな女にはなりたくなかっただろう左幸子演じるトメも、時代や貧困、労働に揉まれるうちにあんな女のところに流れ着いてしまう。トメも強かにやってきたが、娘がそれを上回るのをみて、脚本もすごいなと確信して終わる。

父親がトメの乳を飲むシークエンスは凄い。「乳が張ってるから」と言って娘が父に乳首を吸わせるのもなかなか驚いたが、どうも下心が薄く、野蛮さと独特の絆が勝って感じられた。死に際まで女の乳吸ってた。私がそこから感じたのは、父にとって女の張った乳をなんとかするのがもっとも良い時代だったんだろうなということだった。
この脚本って、もう今後書ける人いないんじゃないか。
それは人が育ってないだけではなくて、私たち現代人が考慮したり参照したりする価値観があまりにも増えすぎて、自分の防衛方法をよく知っているから、書けないのではないかと思う。


鋭い批評眼と時代とそこに生きる弱者に対する少し離れた距離感により、映画のトーンとしては近代化する日本を背負い重たくみえるが、一方で突き抜けるように軽やか。波瀾万丈な一人の女の半生を二時間で描くのは至難の業だが、それを描ききってなお、余白がある。なんたる余裕と冷たさ!好きです!!!!
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