あーさん

長いお別れのあーさんのレビュー・感想・評価

長いお別れ(2019年製作の映画)
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直木賞作家 中島京子自身の体験による原作小説の映画化。

"湯を沸かすほどの熱い愛"で好きになった中野量太監督。
家族をテーマにした作品が多いのは、山田洋次監督の流れかな。

山﨑努が大好きなのもあって、今作も早く観たいとずーっと思っていた。


タイトルが秀逸。
これ以上のものはないくらいに。。

家族ってくっついたり離れたり、つくづく不思議な存在だなぁと思う。
小さい頃は親にベッタリでも、反抗期になると鋭い視線で親を寄せつけず、話もしない。かと思えば、何年かしたら憑き物が落ちたみたいに、急に親しげに話しかけてきたりして。何だったの、あれ?
最初は仲良かったのに、子どもが生まれると子育てのハードさにそれどころではなくなり、どんどん遠ざかっていく夫婦関係。
何でこの人と結婚したんだっけ?
かと思えば、反抗期に結束して子どもに向き合うことで、また寄り添うようになったりして。何なんだろ、これ。

血の繋がりって言うけれど、夫婦なんて元々赤の他人同士。
その二人が作るのを家族って呼ぶんだよね。

夫婦、親子、姉妹、おじいちゃんと孫、、
いろんな関係が絡まって、、

今作は誰かしら、どこかしら、共感できるようになっているんじゃないかなぁ。


お父さん役・山﨑努の佇まい、演技の素晴らしさはもう言うことがない。
一々泣きそうになるんだよ、こんなおじいちゃん、お父さん、いるよねって。
もう、愛おしくて抱きしめたくなる。。

女優陣は、蒼井優だけ"すごかった!"ってよく褒められてるけど、竹内結子も良かったと思う。
長女のしっかり者なのか実は甘えん坊なのかよくわからない感じとか、私はとっても共感できたなぁ。一人だけアメリカ(遠方)住まいっていうのも。
肝心なことが言えず、夫婦関係や子育てがうまくいかない悩みなんて、これは私?と思うくらいシンクロしてて。
息子の学校から呼び出された時の面談での言動には笑ったけど!!
(夫役の北村有起哉がやっぱり素敵 ♪)

お母さん役の松原智恵子は、朝ドラ(あぐり)のお母さん役でもお馴染みだし、何となくうちの母に天然な感じが似ていて、、優しくて憎めないお母さんがピッタリ。
でも、言う時は言う!な所も良いなぁ。

次女役の蒼井優も、恋愛も仕事もうまくいかない…って役どころをそれらしく演じていて、世間で色々言われてたけど、実はこの不器用な感じ、本人の素に近いんじゃないかなぁと思った。(良かったね、素の自分を見てくれる人と巡り会えて♡)

そう、親が病気になってピンチでも、娘達もそれぞれ悩みに事欠かないのだ。。

みんな、生きてりゃ色々あるさ!

孫役の蒲田優惟人くん(小学生時代)と杉田雷麟くん(高校時代)も良かった。
特に、杉田雷麟くんはラストシーンがとてもとても素晴らしくて、彼はここから良い役者になっていくんじゃないかな、と思わされた。面構えが◎

話の内容はやっぱり切なくて、だんだんお父さんの認知症の具合が進んでいくのが悲しいのだけれど、でもそれだけではなくて、失くしていくものも多いけど、お父さんらしさはどこかに残っていて、、家族はそれを慈しむように寄り添っていく。

そんな愛すべき家族の姿が、芸達者な俳優陣と監督の絶妙な匙加減で描かれている。

時々笑いながら、ずっと泣きながら、私は観た。

泣くような所じゃなくても、懐かしくて、嬉しくて、よくわからない感情が混ぜこぜになって、、

ある意味、普通の家族の物語。

でも、その普通っぽくて尚且つパーソナルな感じが、心に迫る。

気をてらった演出はなく、どこの家族にもあるような風景、、なんだけどその切り取り方が、中野監督流なんだなぁ。

予告で散々観たメリーゴーランドのシーンは、、やっぱり泣く笑
(電車の中のあのシーンもね!)

老いるとは、どうしても切ないことではある。
でも、、その姿を誰もが行く道なんだよ、と教えられている気がした。
大層に思わずに、順番だよって思えたら違うのかな。

まだ、その悟りの境地には辿り着けないけれど、でもそのヒントをもらった気がする。

観たいって言ってたけど、父はこの映画をどう観たのかな。

離れているから時々電話やメールで話すしかできないけれど、私もかけがえのない人を大事にしなきゃな、と思った。


大切なことは、伝えられるうちに、ちゃんと伝えなきゃ。

明日、電話してみよう。
"あの映画、もう観た?"って。
あーさん

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