ベルサイユ製麺

いつか家族にのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

いつか家族に(2014年製作の映画)
4.0
…終盤の展開、頭の中に自然と“クロニクル”と“血”というワードが想起されて、それでなんとかもう一つキーワードを絞り出して、レビューの出だしを遠藤ミチロウのアルバムタイトル『オデッセイ・1985・SEX』に擬えたコピーにしようと思っていたのですけど、よく見ると英語タイトルが『Chronicle of a Blood Merchant』なのでした…。いやいやいや、まさにソレ!


1953年、まさに朝鮮戦争休戦協定締結直後(舌噛んだ)の田舎町が舞台。
貧しいながらも叔父さんと農業(的な)事をして糊口を凌ぐ男サングァン。身体は頑丈だが気は優しくて奥手、一本気な快男児である!
サングァンは、みんなのアイドル的存在のポップコーン売りの娘オンナンさんにホの字であるが、彼女には恋人がいる。評判の悪い商人ハ・ソヨン(フレディ・マーキュリー似)である。先ずは先立つものと、結婚資金を貯めるため医院に売血に!(因みに当時は売血するのは健康な男の証とされていた模様) オンナンさんにプレゼント攻勢で猛アタックするも玉砕…。しかし度を超えた一本気でもって彼女の父親を切り崩し、婿入りする事を条件にとうとう彼女と結ばれるのであったよ!

…それから11年後の1964年。
ふたりは三人の息子を儲け、決して裕福ではないが楽しく暮らしていた。…しかししかし、この家族について近所の噂好きな人々は、“長男のイルラクは、オンナンのかつての恋人ハ・ソヨンにそっくりだ”などとコソコソ言いまわります。当然これを面白く思わないサングァンは、イルラクが我が子である事を証明するためにイルラクの血液型鑑定をするのであります。…郵便で届いた鑑定書を、疑惑を解くため皆の前で読み上げようとするサングァン!

…ん?あれ⁇この血液型って…


なんて素晴らしい人情悲喜劇!!
主人公サングァン役にハ・ジョンウ。そしてなんと、監督がハ・ジョンウ!!…マジかよ!ふつうに上手すぎるだろ!!!

基本的にはサングァン、オンナンと子供たちのお話で、そのほかの登場人物は必要最低限しか出ません。序盤はサングァンの何処か間の抜けた感じがひたすらホッコリするコメディなのですが、中盤のイルラクが我が子では無い(←これが事実かどうかは、言及避けます…)と判明してからの態度の豹変ぶり(拗ねた小人物ぶり)は本当に酷い…。いや、確かに浮気相手の子供を11年育てちゃったことに対する怒りや苛立ちは理解出来なくもないですけど、あんた『そして父になる』観てねえのかよ⁈いや、時代とか国とか(架空の人物だからとか)関係無いからね⁉︎必須!
中盤以降もコメディ的で有るのに変わりは無いのですけど、とにかくイルラクに対するサングァンの態度が酷いし、オンナンも引け目からか強く言えずで結構イライラさせられる展開。完全に拗ねてミソジニー全開だし働かないしのサングァンですが、時に“やり過ぎた!”と気づくと金策に…結局、血を売りに行きます。で、その金で皆で饅頭食いに行くって段になってもイルラクは連れて行きません。曰く「俺の血を売った金で買う饅頭を、なんで血の繋がってないお前に食わせなきゃならん?」…と、こんな感じで要所要所で顔を出すのが“血”の話なんですね。金に換えられる血。心情、愛情よりも重い血の繋がり…。コレは凄く普遍的なテーマです。(自分はぶっちゃけ血の繋がりとかどうでも良いのですが…)
さてその哀れなイルラクの身にどんな事が起こり、血を巡る物語はどのように変容していくのか?…が後半にかけての展開です。非常に韓国映画らしい悲壮感の漂うパートです。
心情の移り変わりを絶妙に演じ分けて見せるハ・ジョンウはやっぱり凄い!基本あんなにイケメンなのに、たまに瀧さんそっくりの表情(日本リメイクするなら是非瀧さんで!)浮かべる瞬間とかあってホント憎いほどの達者さですよ。
韓国映画はスタッフロールが全く読めないので、正直映画のどのくらいの部分まで彼がタッチしてるのかは分かりませんが、監督の仕事の範疇に関していえば普通に上手いと思います。今、日本でこれだけ綻びの少ない(というか、気にさせない)ホームコメディ撮れる人がどれだけ居ますかね?初監督でこんなウケにくそうな題材の映画を選択するとこも好感を抱いてしまいますよ。二時間強有る割に長く感じられなかったし、なんなら『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』みたいに成長したイルラクのパートも作って3時間超え位にしてくれても良かったかも。
作品の雰囲気は好き嫌い有ると思いますが、『焼肉ドラゴン』がお好きな方ならバッチリだと思います。ラストがまた良くてねぇ。いやー、良いもん観たわ。自分も愛する人と肉饅食べたい。…フナの煮付けはけっこうです。


あ、韓国の時代ものなので良い顔面もいっぱい拝めます!要注目なのは、“ジョニー・デップと安田顕が細胞レベルで融合したような顔”の導師様ですよ!やっぱ韓国、顔面レベル高え!!