きざにいちゃん

シティ・オブ・ジョイ ~世界を変える真実の声~のきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

4.1
脱北ドキュメンタリー「ビヨンド・ユートピア」で興味を持ったマドレーヌ・ギャヴィン監督作品がNetflixにあることを知って鑑賞。

アフリカのコンゴが舞台。内戦のコンゴで横行する兵士による集団レイプの被害者女性と彼女たちを保護・支援するNPO団体を追うドキュメンタリー。

「ビヨンド・ユートピア」と同じタッチで、見るに堪えない戦時制レイプのリアルが突きつけられる。ならず者兵士による非人道的狂瀾、騒擾というところでなく「兵器としてのレイプ」にフォーカスする。

コンゴは鉱物資源に恵まれた資源国であり、それゆえの利権の争奪が役人や警察、企業、民族、地権者と傭兵などがぐちゃぐちゃに入り乱れて勃発している。もはや誰が何のために争っているのか分からないほどの無秩序の内紛となっているという。正義などない、私欲を満たすための連鎖的な争いのカオスと言ってもいい。
資源を産する土地の支配権を得るために村を強奪する。それには集団レイプで村人を追い出すのが手っ取り早いという理由でレイプが横行する。言わずもがな身体を傷つける暴力や殺人以上にレイプは人の心を折るので相手の戦意を奪える。
さらに村人を皆殺しにするには弾薬が必要だが、レイプは兵士の体一つあればいい。コスパのいい卑劣な「兵器」なのである。

ウクライナの戦争でもロシア兵によるレイプ、リンチが大きく報道された。それ以前にも中東でのIS(イスラム国)のレイプ、イラク戦争での米国兵のレイプ、ベトナム戦争、朝鮮戦争、さらに遡れば第二次対戦中の日本人によるアジア諸国でのレイプなど、悲しいかな歴史的に戦争とレイプが切り離せない現実を、この映画はそのリアルな映像を以て見せつける。
性器を切り取られた女性、暴行を受けて胎児を腹から切り出され、その一部が胎内に残ったまま生死をさまよった女性……酷すぎる。(勿論、その現場映像はない。そこは被害者インタビューが主)

セックスは文化や宗教を超えて世界的に共通の秘事、タブーである。被害者にとっては「恥」であることが多い。それゆえにどうしても隠される。日が当たらず、なかなか表に出てこない。
歴史の教科書に戦争のレイプが詳しく書かれることはない。それゆえに「卑劣な武器化」されやすい。あのアンジェリーナ・ジョリーが主張したとおりだと思う。
この映画でも、その「恥意識」を払拭させようと、被害者に性器の名前を大きな声で連呼させるような教室での場面があって印象的だった。

映画は被害者の悲惨さを伝えながらも、並行して保護団体が彼女たちを守り、癒し、教育を施し、悲しむ被害者から被害を隠さない力強いリーダーへ育ててゆく過程を追う。
被害者たちは徐々に立ち直り、明るさを取り戻し、最後には同じ被害を受けた女性たちを自らが助けるために戦おうと変化してゆく。その表情、目が活き活きと変わって行く成長が感動的だ。

「資源国の呪い」という経済用語(?)がある。
この映画のコンゴが代表例だが、シンプルに考えれば、資本主義社会からの需要が大きく資源国は潤うはずだが、それに反して貧くなる矛盾が「呪い」のようであるとできた言葉らしい。
途上国は教育が未発達ゆえ、利権の奪い合いが生じやすい。大金が動くので賄賂や搾取が横行する。独裁国が多いので権力者はインフラや福祉よりも自分たちを守るために軍事費が異常膨張する。
結果、国は混乱して国民は貧しくなる。

日本企業はこうした国から鉱物資源を買う大得意の一国である。日本の有名企業は一応真っ当な国際間ビジネスで資源を得ているだろう。しかし、その資源産出の下層部の現場は、この映画の描く世界と繋がっているかもしれない。

「アフリカは、日本が世界のリーダー国として開発支援してゆく未来に向けてのパートナー」
という表面的な綺麗な理想しか我々は見ていないのではないだろうか…
そんなことを考えさせられる、示唆に富む秀作ドキュメンタリー映画だった。