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選挙に出たいの小のレビュー・感想・評価

選挙に出たい(2016年製作の映画)
4.0
中国から日本に帰化した李小牧(り・こまき)さんという方が、2015年の新宿区議選挙に立候補した模様を記録したドキュメンタリー。自分が、ひょっとすると過半数の日本人が良くわかっていない「民主主義」とは何かを考えさせる映画だった。

興味本位で出馬したように見えた李小牧さんだったが、様々なことにぶつかっていくうちに、変わっていく。記憶は定かではないけれど、はじめのころの街頭演説で「公衆トイレを清潔にしよう」みたいなことを言っていた彼は、終盤では「あなた方が投票に行かないとこの国は変わらない。私に入れなくてもいいから、投票所に足を運んでほしい」と変わっていた。彼は選挙戦を通じて民主主義の「弱点」を理解し、本作はそれを表現したのではないかと思う。

<その「弱点」は、民主主義が「民主主義というものが良くわからない人達」に対して、強制的で罰則付きであるような「民主主義教育」をしないということにあります。>(『国家を考えてみよう』橋本治・著 以下引用は同じ)

社会主義国家や国家主義国家は国家基盤を維持するため「思想学習」を強制して、徹底する。ところが民主主義国家にそんな強制はない。なぜならば<民主主義が、「民主主義は人にとって最も自然なあり方であり、人は愚かではないので、ちょっと考えれば民主主義に対する理解は訪れる」と考えているからです。>

民主主義は、ありえないことだけれど「愚かな人はいない」という前提に立つが故に、愚かな人でも「政治的決断に関する一票を投ずる権利を持つ有権者」としている。故に国家主義や社会主義に向かいたい人は、衆愚政治と考えて、国家が国民に「こう考えろ」という思想教育をしようとする。

歴史をみると、そういう国家主義国家を選ぶのは国民なのだけれど、それは民主主義の経験が少なくて、立派な「指導者」(大昔は君主、国王)に引っ張ってもらうことが自然で当たり前のように感じられるから、らしい。世の中の不安が大きくなってくると、この「自然で当たり前の感じ」が強くなってくる。

だけど、民主主義が選ぶのは「指導者」ではなく「代表者」なのだ。民主主義の弱点を踏まえたうえで、「代表者」が「指導者」あるいは「権力者」にならないようにするためにはどうすれば良いのか。

「国家は我々国民のもの」だから我々には<国家を支える政治に参加する義務がある>ことを忘れずに、<「自分が国民である国家は、どういう方向へ進めばいいのか?」と考えること>を基準として一票を投じることである。要するに、大切なことは自分の頭でよく考えろということである。

「中国人は嫌いだ」「中国へ帰れ」と罵声を浴びせられた李小牧さんが「あなた方が投票に行かないとこの国は変わらない。私に入れなくてもいいから、投票所に足を運んでほしい」というのは、こういうことではないだろうか。

●物語:4.0
・良く考えて投票するようにします。

●他 :4.0
・李小牧さんのキャラがイイ。
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