あなぐらむ

狙撃のあなぐらむのレビュー・感想・評価

狙撃(1968年製作の映画)
4.2
ガンアクション映画をカミュの地平に飛翔させた堀川弘通監督の傑作。
狙撃の一瞬に生を見出だす殺し屋・加山雄三の孤独と愛を、詩編のように描き出す。全てのカットが美しい。浅丘ルリ子が眩し過ぎる。
モーゼルが、AK47が、ルガーレッドホークが吼える! 加山と銃の提供者・岸田森との革命への理想、ストイシズムも隠し味。
脚本の永原秀一の筆が冴え渡っている。必ずポケットに仕舞う薬莢、ノクトビジョン(赤外線スコープ)での連射、モーゼル・ミリタリーピストルの見事な描写。全体に漂う上品さが東宝らしく、日活や東映作品への見事なアンサーになっている。時代柄、学生運動への傾斜も見らるのは東宝ニューアクション全体のイメージでもある。

それにしても本作の岸田森は「帰マン」の坂田さんの転生した姿にしか見えない。自らの果たせない夢を、優れた若者に託す男。こういう一歩前線から後退したインテリをやらせるとほんとに岸田森は巧い。
加山雄三と対決する森雅之も凄い。ガンアクション映画の経験は無かったというのにあの早撃ち。居合いに通じるものがあるんだろうか。それとも役者魂か。最後の倒れざまも素晴らしい。顔避けないんだぜ?

クライマックス、松下は左手で銃抜いてるんだよね。右手よりも早撃ちにするという、ガンアドバイザーの国本さんのアイデアをそのままやってのけてる(同時に、森雅之が利き手である右手側を撃つことも計算している)。
加山雄三の本線は「暗黒街の弾痕」や「弾痕」でのスマートで玄人っぽいアクションであると思う。

さて「狙撃」が日活と線を結ぶのはヒロインが浅丘ルリ子である点。古きよき日活が転生したかのように、東宝ニューアクションにルリ子がいる。
ルリ子も典子三部作を経て、謎めいた大人の女性になった。この映画を取り巻く妙な空気は、68年という年がどういう位置づけにあったのか分からないと、ピンと来ないかもしれない。このぶった切るようなラストは閉塞していた東宝映画自体の空気でもある。
撮影の長谷川清は後に角川=東宝の市川崑作品を担当する職人。

「弾痕」「豹<ジャガー>は走った」「薔薇の標的」へと続く加山雄三ニューアクションは、テレビドラマ「大追跡」へと繋がって行く事になる。