梅ちゃん

母を亡くした時、 僕は遺骨を食べたいと思った。の梅ちゃんのレビュー・感想・評価

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母の遺骨を前にした時、僕も全く同じことを考えました。

先月、3年間闘病を頑張った僕の母が旅立ちました。
これまでは、ひどく叙情的で具体的なタイトルの作品だな、位にしか思っていなかったけど、今となっては強く共感を覚えています。

本作は、漫画家宮川サトシさんのエッセイを原作とした、大森立嗣監督による2019年のヒューマンドラマ。

1990年代後半に〈ハヤ子サケ道をいく〉というコミックがありました。酒雑誌の新人編集者ハヤ子が、様々なお酒の取材を行い、その過程でお酒に関わる人々の心と交流してゆくヒューマンドラマ。様々な種類のお酒のバックボーンを知ることも出来、興味深く読んでいました。
その中に一つに、ハヤ子の父が愛する妻、つまりハヤ子の母を亡くした後、その遺骨を少しずつお酒に混ぜて飲み干したというエピソードがありました。
当時学生だった僕には、その心情はいまいちピンと来なかったのですが、今回母の遺骨を前にした時に、ずっと心の隅にあったこのエピソードが、突然強烈に想起されました。なるほど、こういう事かと。こういう気持ちかと。

僕と母はとても仲が良かったと思います。二人で色々な場所へ出かけました。母は背が高く、とてもお洒落が好きな人で、髪がベリーショートのプラチナブロンドということも手伝って、歩くとかなり目立つ人でした。
友人達が教えてくれる母の目撃情報にも、『ツチノコじゃねーぞ』とか言いながら、恥ずかしくも嬉しかったのを覚えています。
なお家族内、特に仲の悪かった2番目の姉からは〈群雄割拠のマザコン界に、彗星の如く現れた驚異の逸材〉的な誹りを受け続けた日々も、今となっては懐かしいものです。

そんな僕も大学進学を機に実家を出て、そのまま就職し結婚。僕の人生も両親と離れて暮らし始めてからの方が長くなっていました。そして、住むところが離れていることやコロナ禍の影響もあり、3年前から続いた母の闘病をそばで支えることもかないませんでした。

劇中、主人公サトシは懸命に大好きな母の闘病を支え、みっともなくもがきます。
それはまるで僕が出来なかったことを代わりにしてくれているようで、鑑賞中はなんだかずっと後ろめたい気持ちで一杯でした。
ただその時間は、これまで何となく考えることを遠ざけていたことに向き合う時間になったとも感じられ、有意義なものになったと考えられます。

また、演出に誇張が過ぎるとは思いましたが、それまで比較的冷静だった主人公の兄が、海岸で全裸になりブチまけた〈喪失感と寂しさ〉〈母の闘病を支えてくれた家族への感謝〉〈父は自分が見送る〉といった心情は、葬儀後に僕が家族に向けた言葉とほぼ一致し、この物語のリアリティレベルに若干引きました。
あ、僕は全裸じゃないすよ。

最後に、『人の死にはエネルギーがある。残されたものを前に動かす力が。』というセリフがとても印象に残りました。
願わくば、僕自身も妻や息子たちに大きな力を与えて去りたいものです。
また一つ、頑張る理由が出来てしまった。

今回、自分の気持ちを整理するのにこの場をお借りしてしまいました。
拙い長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

なお、評価については、あまりに作品に感情移入してしまったため、ノーコンテストとさせて頂きます。


番外編、 実家のカレー問題🤔🍛❓


劇中、塾講師の主人公が生徒たちと〈最後の晩餐〉について議論するシーンがある。
寿司だなんだと挙げる生徒たちに対し、主人公が『うちのカレーが一番』と一刀両断。『俺んちのカレーの方が絶対美味い』と絡んでくる生徒どもを歯牙にもかけず、『うちのカレーが最高!』という結論で押し切った主人公が大人げなくて微笑ましい。

やはり慣れ親しんだ家のカレーは格別ですよね。
僕の母のカレーは、セロリの微塵切りと隠し味に生姜が入っており、煮崩れを嫌ったジャガイモは別皿で出されるので味がぼやけませんでした。
断言しますが、最高のカレーは映画で出てきたそれではなく、 母のカレーです。
ただ、随分前からカレーを食べたい時に思い浮かべるのは、妻のカレーなんですよね。そしてそちらも美味いのです。
うん、甲乙つけがたい。
どちらも最高ということでファイナルアンサー!

…ああ、カレーが食べたくなってきた🤤