かえるま

ザ・サイレンス 闇のハンターのかえるまのレビュー・感想・評価

3.0
〈ネタバレなし〉なかなか面白い…が、オリジナリティある傑作とまでは言えないか。どうしても設定が酷似するクワイエット・プレイスがよぎる。
クワイエット〜と同じく「家族」をテーマにしているが、切り取り方は結構違う。
表面のホラーだけ見ずに、行間を楽しみたい作品である。

〈あらすじ〉突如現れた、音を頼りに見境なくヒトを襲う獰猛な生物「ベスプ」。
ベスプにより荒廃した合衆国で、主人公一家は生き延びるための逃避行に入る。

主人公ヒューは2児の父。
高校生の娘アニーは過去に事故で聴覚を失っており、ヒューは母親ともども心配で仕方ない。

〈解釈〉父親のヒューは肉弾派ではない、等身大の父親像。
頼り甲斐があるようには見えないが、家族を守るために時に非情な決断もしていく。

本作では前述の化け物べスプや、よう分からんカルトが一家を襲う。
これらは、父親から見た「家族に忍び寄る脅威」のメタファであろう。

つまり、この作品は、自立しつつある娘を心配しながら見守る父親の不安と葛藤を、未知の危険生物に載せた物語である。

娘のアニーは耳は聴こえないが、本人は大して悩んでいない。
彼女には必死に手話を覚えてくれるボーイフレンドや、無条件に愛してくれる家族がいる。
たまに同級生にからかわれても気にしない。強い子なのである。頭もいい。
しかし、親はまだまだ未熟な子供と思えてしまうわけだ。

ヒューは自立しつつある娘に、理解ある父を演じたい。が、めっちゃ心配。
だからボーイフレンドの話を根掘り葉掘り聞こうとしてウザがられちゃう。パパあっちいって。

ヒューも実は娘がもう立派な大人だということは分かっているのだ。
だから作中何度も娘の意見を採用するし、いざとなれば娘を相棒に探検にいく。

子供は育ち、親から離れる。しかし親の方はいつまでも保護者の気持ちが抜けない。

ラストシーンで、アニーの後ろにいる人物に注目したい。ヒューが「娘離れ」できていないなら、後ろには必ずヒューがいるはずである。



〈以下、ネタバレ感想〉



さて、ネガティブな意見も。
モンスターの造形はもう少しオリジリティが欲しかった。クワイエット・プレイスと同じじゃん。

それと、粉砕機を起動するとベスプが音につられて次々と粉砕機に入っていっていく描写。
あれはいらん。
あれで倒せるならアメリカ中で同じことしとけば、ベスプは簡単に駆除できるはずだ。
(まぁ、これはクワイエット・プレイスの化け物の倒し方でも同じ感想をもったが…)

後半のカルトもホントよう分からん。アニーを攫う目的がわからん。人間爆弾にしたかったのか?
前述の通り、カルトは「娘に危害を加える何か」を可視化したものなので、まぁ目的はなんでもいいっちゃいい。
ただそれにしても、描写が雑だよなぁ。ラスト30分にしか出てこないし。

この辺は原作小説では説明があるのかもしれないが、なにぶん未翻訳作品なのでわからない。興味はあるので、どこか翻訳出してくれないかな…。

総じて、結構面白く、テーマもわかりやすいが、多少荒削り、という感じかな。観て良かった作品なのは間違いない。
かえるま

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