Neki

アド・アストラのNekiのレビュー・感想・評価

アド・アストラ(2019年製作の映画)
5.0
宇宙という人類にとって最も大きな舞台を使って、親子という人類にとって最も身近なものを描き出す

拡大と縮小だ。規模が違い過ぎて、観客に伝わるほどメタファーとしてうまく機能しなかったのかもしれないが。

さらに視覚的に美しいのでより宇宙に気がとられて、親子関係がむしろおまけに見えてしまう。
冒頭のシーンなんか天地創造かーいって思えるくらい美しい光の三原色から始まる🌏

細部まで意図して作っているのを感じたし、科学的な考証も、テーマや芸術性を先にして意図的に無視してたと思う。まあ全部網羅して宇宙映画作るの大変すぎるし、ある程度無視しないと作れない部分あるよねきっと。

ああいう風に宇宙と人類を描きだす才覚のある人が雑な脚本を用意するはずがないのだけど、地中に埋まってるかの如く作中ほぼ語らないので観客は確かによくわからないと思う。

脚本もメッセージも宇宙らしい静けさにすっぽり包まれてしまっている。音楽もあえて眠くなるくらい抑え目。



ここからは至極プライベートな意見だけど、親子関係がロイ的に破綻している人が見るとロイが何を考えて何をやってんのか感覚的に良くわかるんじゃないでしょうか。片親で、ついにコンタクトできた父はもう手が伸ばせないほど気が狂ってて。
全員がそうだとは限らないけど、あの手の親の子どもって現代でわりとロイ的な気分で日々生きてると思う。
感情の抑制、繋がりの欠如。

さて、父と子の話だし死んだ人を祈りで見送るし、そういうキリスト教的な文脈で感想を言うなら、確かに旧約聖書に子は親の罪を負わないって書いてある(親も子の罪を背負わないし)

だから親の愚かな業を子供は引き継がなくていいし、つまり父親の馬鹿げた孤独や理想をロイは引き継がなくていい。むしろ決別できるし、しなくてはならない。それには親の影を立ち切らないといけない(精神的な親の死)から、残念ながら親を救うことまではできないけど(映画では実際の死)。

でもそれが、親の業に振り回され悩まされる子供にとっては深い救済になる。
序盤からずっとロイだけは顔がアップで映され続けていて、観客はロイ自身を見つめなくてはならなくて。宇宙はロイの精神世界の旅のメタファーでもある。
実際の宇宙的孤独だけじゃなくて、地上でも精神世界でも、彼は根本的に孤独なんだよね。プラネテス(漫画)で表現されてる宇宙も同じく、精神世界のメタファーだと思う。

親子関係の話より、もっとずっとロイの救済の話だと感じた。繋がりの回復、村上春樹の配電盤と同じ感じです。孤独からの救い。そういう意味でキリスト教っぽい。オイディプス的な解釈も成り立つんだろうけどそっちは良くわからんかった。

この映画が公表時に海外でわりと好意的な評価受けてるの面白い。まあ分かりやすく破綻した家庭も多いだろうし、伝わるほどの社会的文脈が形成されてるのかもしらん。

映画としてというより、プライベートな意味合いで星つけちゃいます。
Neki

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