francois708

花咲く季節が来るまでのfrancois708のレビュー・感想・評価

花咲く季節が来るまで(2017年製作の映画)
4.5
欠かさず服用しなくてはならない薬、突然襲ってくる皮膚の炎症、主人公ヘスの謎めいた心と体の描写は、後半になって〈トランスジェンダー〉と言語化される。
自分の気持ちに正直に生きようとすればするほど、そんなつもりはないのに、周りの人を裏切る結果になってしまう。女性らしい外観で判断して、いい男を紹介してあげるよと世話を焼いたり、生理用品持っていますかとたずねたり、好きになってくれたりする人々に対して、なかなか本当のことを言えず、黙ったり、はぐらかしたり。それでも、自分らしく生きる、体と心の不一致を生きるという主人公の意志は変わらない。たとえ、そのために生涯孤独に耐えなければならないとしても。
ほとんど飾り気のないヘスのカフェの内装を、高校生イェジンが造花で飾っても、ヘスはそんな風に飾ることにあまり乗り気でなく、うん、まあいいんじゃない、と傍観しているのだけど、それがヘスの心のあり方で、自分を飾らずに生きていく意志のあらわれと言えるだろうか。
イェジンが、思いを寄せている人がトランスと知ったあとも、好きでいつづけるのを見ると、好きという気持ちと、相手のジェンダーが何であるかということは、ほんとうは無関係なのかもしれないと思う。逆に言えば、その人がトランスと知った途端に離れてゆく人は、その人をほんとうに愛していたとは言えないのだろう。
登場人物たちのささやかな心の動きをていねいに描写してゆく、静謐な空気に満たされた映画だった。主演のイ・ヨンジンの愁いを帯びたたたずまいが好き。
トランスジェンダーの主人公をここでは女性の俳優が演じていたが、ほんとうのトランスジェンダーが演じたらどんなふうに仕上がっていただろうか。そもそもトランスジェンダーの俳優など存在しないのだろうか。存在してもいいのにな。
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