140字プロレス鶴見辰吾ジラ

麻雀放浪記2020の140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

麻雀放浪記2020(2019年製作の映画)
3.7
【メジャーリーグは頭が悪い】

麻雀なんてルールも知らない、興味もわかない。アニメ「咲」にて、とりあえず麻雀は運が良ければ必殺技みたいなコマが揃って、遊戯王より大きな数字が動くモノと思っておりましたが…本作の監督は白石和彌とあれば見ないわけには行きませんよ。

それでは感想を…
これは「白石和彌の元気の出る映画」である。

正直、麻雀と博打打ちの勢いだけの映画というイメージが冒頭の世界観への放り出しから、クライマックスの男と女がキスするシーンまでの延々とがなり立てるような作風で頭から離れなかったわけですが、白石和彌監督の最近の作風にある元気印の映画であるがゆえの見た後の後味の良さはしっかりと残っていました。

白石和彌監督は昨年、「孤狼の血」にて昭和時代のヤクザと警察の暴力と彼らなりの戦略や抜け道、そして仁義の部分を色濃く見せて、多くの絶賛を受けました。本作「麻雀放浪記2020」は、またもや昭和時代の泥臭くて、タバコ臭くて、そして生きることに懸命になれていた時代を、「孤狼の血」の後味と同じように、現代社会の停滞に対して喝を入れるようなスタイル…これはストロングスタイルを描きたかったのではないかと思います。ストロングスタイルとしてやりたいならばピエール瀧逮捕でビビっちゃいられないというわけですし、屈したら本作の熱量は奪われてしまうことでしょう。

そして、本作が想起させたのは、先日引退会見を開いたイチローの「メジャーリーグはあまり考えない方向に向かっている。」という発言に対して、時期は違えど、アンサーになるような、その世界を極めた者が感じられる技の世界なのだと思います。メジャーリーグが考えなくなっているというのは、徹底したデータ野球化が進んでいて、本作の敵と同じように膨大なデータからAIや非選手が戦略や数値化された価値観をプレイヤーに要求し、いわば操り人形化しているということを揶揄してのものでしょう。プレイヤー=勝負師は、スキルやマインドもそうですが、実際その場の空気や質感や会話のやりあい、勝利のためイカサマすべて含んで勝負であり、勝ち負けに関して何を賭けて闘うか、勝負のヒリヒリするような胸焦がす瞬間瞬間のジャンキー感こそ本質なのだと表現しています。作品自体は稚拙な演出や鼻につく描写が多くテンションは常に高くないですが、元気を出させる、停滞に喝を入れるという趣旨においては、昭和時代の物質的に豊かでなかったからこそ、停滞より前進、前進は勝負、勝負に信念が宿るという「生き様」映画という側面を白石和彌フィルモグラフィの中で輝ける作品となることは間違いないでしょう。刺激的!