KnightsofOdessa

ザ・リバーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ザ・リバー(2018年製作の映画)
4.0
[カザフスタン、家父長制と消費主義の壮絶なバトル] 80点

『ハーモニー・レッスン』『The Wounded Angel』から連なる"アスラン三部作"の完結編。今回のアスランは文明から隔絶された平原に四人の弟たちと共に暮らしている。肉体労働を強いる強権的な父親と自由に遊びたい四人の弟にの間で、現場責任者の長兄アスランは常に板挟みの立場にあるが、近くにある"願いを叶える川"との出会いによって覚醒していく。この川、あまりにもデカく早いので、泳ぐシーンでは必ず向こう岸が見えないし、左から飛び込んではすぐに画面右端まで流されて消えていくのが凄い。また、あまりにも何もない平原に閉塞感を生むため、壁一面を使って奥行きを潰すショットが多用され、まるで"目の前に自由があるのに自ら枷をはめる"かのような不条理を視覚化している。ある日、未開惑星に降り立った異星人のような格好の甥がアスランの家を訪れる。彼がもたらしたゲーム機は、常に五人一緒に行動する意志のない兄弟に強固な自我を与え、不和をもたらす。ここにきて漸く、家父長制と消費主義批判という二つのテーマが立ち上がるわけだが、その両方を等しく画面から消し去るのが川の急流であることは忘れがたい。冒頭の戦争ゲームからラストの失神まで寝転んだり転倒したりが頻発するんだが、三途の川みたいなイメージなのかもしれない。

過去二作のアスランと異なり、本作品のアスランは鏡を覗き込まない。彼は自分のいる場所に自覚的で、自ら望んで家父長制を引き継ぎ、文明を破壊しているからだろう。ショットもロケーションも音の動静も抜群に良いのだが、あまりにも限定的で分かりやすすぎるのではないかとは思うが、それでも、密告監視社会と化した後半30分のえげつないディストピア感は好き。
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