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ホワイト・クロウ 伝説のダンサーのumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

3.1

このレビューはネタバレを含みます

ソ連から亡命した天才ダンサー、ルドルフ・ヌレエフを描いた作品。キーロフバレエの海外公演のためにパリを訪れているヌレエフの「現在」、バレエ学校に入学してからの「過去」、田舎にいた少年時代と、いくつかの時間軸が交錯してストーリーが進んでいく。監督は名優レイフ・ファインズ。

まず、ヌレエフを知っていることが大前提という作りになっている。バレエ好きならば誰でも知っているヌレエフという名前ありきなので、まるでバレエの知識がない人だと、まず彼が尋常ではない才能の持ち主だということを理解するのに時間がかかると思う。そういうシーンが途中まで全然出てこないから。

あと、時間軸の組み合わせがちょっとわかりにくい。「あれ?いまどこ?ソ連?パリ?」となる個所がいくつかあった。もう少し雰囲気に差をつけられる気はするんだけど…。パリのシーンは、実際のオペラ座の稽古場も出てきたりして楽しい。セルゲイ・ポルーニンがちょいちょい出てくるのも眼福。役柄としては大したことはないのだが、しっかり躍らせているし。サービス精神は忘れない。

ヌレエフ役に抜擢されたオレグ・イベンコはとても良い。ヌレエフに風貌が似ているし、踊りも魅力的。いつもなにかにイラついているような不安定さや、過剰なハングリー精神も感じさせる。

前半はやや退屈だったものの、クライマックスの亡命シーンの緊迫感はなかなかのもの。手に汗握る緊張感があった。見どころは間違いなくあのシーン。あと、ピエール・ラコット役が出てきたりとか、バレエファンには嬉しい要素も満載。男性ソロのバリエーションをほとんど丸々見せてくれるシーンもいくつかあるし、バレエ映画としてはそこそこ満足度が高い。

ただ、特に愛情面の描き方はちょっと…。ヌレエフがゲイだったことを示すためだけに登場させたとしか思えないドイツ人ダンサーの雑な扱いも気になったのだが、もっとイヤだったのがプーシキン夫妻との関係。プーシキンの自宅に一時期住んでいたというのは史実通りだとしても、途中に出てくるあるシーンがショッキング過ぎて……吐きそうになってしまった。あれ、私の基準だと完全に性暴力なんですけど。『ビューティフル・ボーイ』がR指定で本作が全年齢OKなのかあ。裸こそ出てこないけれど、正直キツかった。ヌレエフはソ連からもプーシキン家からも逃げたと思わせたかったのかもしれないけどさ……。あんなに強烈なセクハラシーンがあるなら、最初に言ってよー。と思ってしまいました。
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