Ricola

マチルド、翼を広げのRicolaのレビュー・感想・評価

マチルド、翼を広げ(2017年製作の映画)
3.6
想像することとは、辛い現実を生きやすくするための避難所である。
主人公のマチルドは、情緒不安定な母に振り回されて苦しさや生きにくさを感じている。そんな彼女の居場所は空想の世界なのである。自分の理想や思い通りに物事は進み、かつ自分らしくいられる空間なのだ。

マチルドの空想の世界と現実世界が入り混じりつつも、前者の世界が中心となるシーンも多い。
この不思議な世界観に戸惑いを覚えたが、マチルドの繊細な心の葛藤がそこによくあらわれている。
絵本をパラパラと捲るように、ポップだがブラックなマチルドの世界に浸ることで自分の幼少期の頃を思い出しさえもする。


マチルドの母の奇行はなかなか理解し難い。
三者面談中に窓の外に見える鳥の巣を娘に見せるために平気で机の上に立たせたり、試着したウェディングドレスでショッピングセンター内を歩き回ったり、そのまま白いベールを纏って徘徊したり…。
母親としてほとんど機能しておらず、マチルドが不安定な母親の面倒を見ており、親子の役割が逆転してしまっている。
マチルドの負担や影響は相当なものであるはずだが、彼女は常に我慢をしている。

マチルドは母親を理解しようとしても、寄添おうとしても、母からマチルドに歩み寄る気配がない。だからこそマチルドの鬱憤はどんどん溜まっていくばかりである。
しかしマチルドが母への怒りを物にあたって発散しようとしても、結局はマチルドがそれらの片付けなどをすることになるのだ。

一方でマチルドの世界は、母親がプレゼントしてくれたフクロウや学校の骨格標本のガイコツなどが主なメンバーである。
マチルドがじっと見つめるガイコツの空洞の「目」のショットから、籠の中のフクロウの真っ直ぐな瞳のショットが印象的。
魂の抜けた「死体」から生命の宿っている生き物へとそのまま繋げて映される。
マチルドにとって、フクロウもガイコツも彼女の世界の住人であることに変わりない。

想像力豊かな彼女は、人や生き物、無生物の立場に立って考えて行動していく。
それはまた彼女が自分の殻に閉じこもっていくことをも意味している。
でも閉じこもることが、彼女が自分自身の身を守ることでもあるのだ。

雨やマチルドの想像の世界の霧深い森奥などは、幻想的かつ不気味な雰囲気を醸している。彼女の理想の世界はまるでおとぎ話の世界のようだが、だからといって実現不可能というわけではないだろう。
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