りりー

マチルド、翼を広げのりりーのネタバレレビュー・内容・結末

マチルド、翼を広げ(2017年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

精神的に不安定で育児がままならない母親と、そんな母親を慕う娘の物語なんて、どうしたって辛いものになると思うのだけれど、娘のイマジナリーフレンドたるフクロウの存在が、かろうじて本作を救いのあるものに留めている。

フランスの福祉事情がわからないので推測だけれど、職を持つ父親ではなく母親がマチルドを引き取ったのは、母親が強固に主張したからだろうから、病気の進行によるものとはいえマチルドをきちんと守れなくなっていくのは彼女にとっても辛いことだったと思う。そんな中でマチルドから離れる選択をしたのは、マチルドにとっては何より耐え難いことだとしても、母親からしてみればマチルドへしてあげられる最善かつ唯一の策だったのだろうな。
長い長い別離を経て再会した母娘が、文字通りにぶつかり合うダンスと、言いたかった/言ってほしかった言葉の交換によって詩を組み上げる美しいエピローグを思えば、一緒にいなくとも親子でいることはできるし、親子だからといって共に暮らすことが必ずしも正しいわけではないのである。冷徹にも思えるけれど、その平静さがこの辛い物語を柔らかな結末へ導いたのだと思う。
ラストカットのあとに監督による母親への献辞が出るけれど、どのあたりまでが自身の経験に基づいたものなのだろう。マチルドの混乱をどっしりと受け止めたり、彼女が口にできない母親への怒りを代弁していたフクロウのような存在は、監督にもいたのだろうか。もしマチルドが一人きりだったら、本作はどれだけ孤独なものになっていただろう。胸がキューっと苦しくなる。

原題は劇中の印象的な台詞からとったものなので、邦題も直訳にしてほしかった。
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