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メランコリックのJFQのネタバレレビュー・内容・結末

メランコリック(2018年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

М-1漫才師ならこう漏らすのかもしれない。「あ~、やめてくれ~。最初にギョッとさせといて、最後にほっこりする長尺コント。やめてくれ~。」

または「奴隷の鎖自慢」という逸話を思い出してもいいかもしれない。「奴隷は、自身の境遇に慣れ過ぎると、驚いた事に自分の足を繋いでいる鎖の自慢をお互いにし始める。俺の鎖の方が光ってて重そうで高価なんだぞ!などと。」というアレだ。

いや、もっとストレートに言えば。
「ここで前菜をこう出して、その後にメインディッシュをそう出して、その後でデザートをああ出せば、たいていの客はエクセレントと言うに決まっている!」という「方程式」が演劇界を中心に蓄積されているのだとしても。だからといって「中身に何を入れてもいいわけではない」と。
(ちなみにで言えば、演劇らしさを出したいなら、銭湯バイトの松本が変に格闘スキルが高いこととか、主人公の母が看護スキルが高いこととか、伏線⇒回収⇒おおー!チャンスがもっと作れたと思う)

別の言い方をすれば。「こんな仕事は世の中から消え去るべきだ!」と言うべき時にはそう叫ぶべきであって。「どうせ叫んだって変わらないんでしょ。だったら、”ほっこり”した方が得じゃね?」みたいに思うべきではない。

いや、「べきではない」とか言われても…。「それって、あなたの感想ですよね?」と言われるのかもしれない。それでも、自分は「ああ、俺の感想だよ。でもそう叫ぶべきだ!」と言いたい。

ともあれ。「お前はいきなり何をまくしたてたんだ?」と思う人向けにストーリーを追っておくと。

ドラマはとある町の「銭湯」を舞台に展開する。そこは営業時間中は「どこにでもある昭和な銭湯」。だが、営業時間外には「裏の顔」を表す。
実はこの銭湯は「反社勢力」の「殺しの場」だった。いろんな事情で殺さなければならなかった人間がこの銭湯に運ばれてくる。その死体を焼き、処理する場所として、ここが使われていたのだ。
そんな場所にひょんなことから働くことになったのが主人公の「東大卒ニート」。彼はうっかり「銭湯の秘密」を知ってしまったことから、「反社勢力の殺し殺される世界」に巻き込まれていく。
通常なら「鬱」になるような展開だ。だが、主人公はこの状況に適応しただけでなく、ここで培われた人間関係を元に、これまでの「砂をかむような人生」を脱却していく。そして「彼(ら)なりの幸せ」をつかんでいく…という展開になっている。

自分は途中までは「わかるなあ」という感覚は持っていた。つまり、客観的には「クソ仕事」だとしても、そこには「現場」があると。で、「現場」があれば、そこにはチームワークなり、反発なり、嫉妬なりの「人間模様」があるのだと。

また、この社会にはもはや「クソ仕事」しか残っておらず、そのことについて「昭和世代」はまるっきり鈍感だと。それを「棒ゼリフの団欒」という「大学は出たけれど(小津安二郎)」のオマージュで描いてる感じも(過大評価かもしれないが)わかるはわかる。

さらに言えば。上の世代は、口では「こんな世の中は変えねばならぬ」とか言いながらも、いざとなったら「いや、俺だって生活があるからさあ…」とか言って寝返ると。そんな様を描く感じも分かった。

それに「オレンジの半そでに紺の長袖のユニホーム」とか「ネルシャツ」とか「うだつのあがらない人」たちが着(させられ)てしまう「なんとなく憎たらしい(どんくさい?)感じ」も分かる。

でもだからといって。この映画で描かれるような仕事は「世の中から消えた方がいい」に決まっている。なのに、そこを「逆張り」して、「ほら、こんなシチュエーションでもほっこりするでしょ?」みたいに描くのはどうか?「ほっこりメソッド」に毒されすぎではないか?

いや、「マッチ売りの少女」のラストのように「火でも擦って、幻想をみなけりゃやっていけないんすよ今は?」ということが言いたかったのかもしれない。

それでも自分は「このクソみたいな状況でほっこりしてる場合じゃねえだろう!」と思ってしまう。自分の中の「ロックスターマインド」が発動してしまう(笑)

とはいえ。なぜ、こんなレビューを書こうと思ったかと言えば、おそらく2020年代は、こういう作品が各界で「増殖」すると思っているからで。

自分がレビューした作品でいえば「リコリス・リコイル」とか。「MONDAYS」とか。

こういう「状況はブラックなのにほっこり作品」が、2000年代に「日常系」が流行ったように今後は流行って行くのだと思っている。いわば「ブラック日常系」とでも言うべきか。
本作はその「さきがけ」に位置する作品なんではないか?と。

だから、今後もこうした作品については自分なりに「コレクション」していきたいと思っている。
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