春とヒコーキ土岡哲朗

メランコリックの春とヒコーキ土岡哲朗のレビュー・感想・評価

メランコリック(2018年製作の映画)
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異常事態だけどいいや、と抵抗しないことの危なさ。

非日常な設定なのに、日常的な感情を続ける主人公。バイト先の銭湯が、閉店後はヤクザの殺人場所として使われていたという、日常から一気に非日常に引きずり込まれる設定。そこで主人公は、殺人現場を目撃したことで「仕事」に加担させられる。ここから、ビビり倒しながら闇社会に巻き込まれていく話かと思ったら、違った。主人公は、店主から報酬としてなかなかの金額をもらい、それが嬉しくて家に帰ってから布団の中でニヤニヤ喜びを噛みしめる。そんな世俗的なリアクションに驚かされる。
そして、「次はあれいつあるんですか?」と自分から言い出すくらい、お金欲しさに死体処理を期待する。主人公は特にお金にがめつかったり、飢えているわけではない。彼女と高いレストランに行く描写はあれど、それはお金があるからできることをやってみただけで、彼女の「次は落ち着く居酒屋にしよう」という言葉を素直に聞いていて、大金を手にして金銭感覚が変わったわけでもない。ごく普通の「お金こんなに稼いだ!うれしい!」という達成感でしかない。主人公がそんな通常運転をするという異常な映画。
でも、大変な事態になっても感覚を麻痺させて日常、当たり前、と自分に言い聞かせてしまうのは、人間のやりがちなリアクションだなと共感もしてしまった。

だんだんと「これを受け入れるのはやっぱり危険」と気づいていく主人公。それと反対に、ある人物は「方向転換をせずに危ない世界と関わり続ける」という道を選ぶ。
果たして、どちらが勇気のある選択で、どちらが幸せを手に入れられるのか!?