「セッション」に「落下の王国」を無理やりくっつけたような、インド・チェンナイ発の音楽スポ根映画。
「ムリダンガム」というのは、インドの伝統的打楽器の名称。幾つかのレビューで「ムリガンダム」になっていたが、それモビルスーツだから。
加えて「響け! ユーフォニアム」みたいなタイトルで金管楽器女子高生萌えオタを釣ろうとしてるが、ほぼ100%、大量の暑苦しいオッサンが出てくるので、萌えオタは観ないほうがいい。
■最初に概要
ボリウッドスターの追っかけをしてた主人公ピーターが、ムリダンガムの魅力に取り憑かれ、伝説的ムリダンガム奏者になんとか弟子入りする話。
この作品の舞台となったチェンナイは南インドの東部に位置する都市。一度行ったことあるが、牛が路上を占拠しているようなこともなく、インドの中ではモダンで過ごしやすい都市という印象。それでもカーストや貧富の差は大きく存在し、この作品の主人公ピーターの実家は、ムリダンガムの楽器作りには携わるものの、演奏は出来ない低いカーストなのだ。そんな貧富の差の激しさは、貧困層の子どもたちが本物のピザを求めて奮闘する映画「ピザ!」などでも観ることが出来る。
チェンナイで印象的だったのは、新興宗教の瞑想施設オーロヴィルと、全長6kmとクッソ広いビーチ(マリーナ・ビーチ)と、毎日食べてた「ミールス」と呼ばれる定食料理。色んなカレーやスープ、野菜に囲まれたライスを手で混ぜて食べるの、すんごい楽しかった。
そして、この作品も、「ミールス」みたいに盛りだくさんな内容。
音楽! 踊り! アクション! 恋愛!
……こんな感じで、モリモリの盛りだくさん。その割に上映時間も135分と長くない。
■俺の感想
最初から最後まで「なんじゃそれ!」って言いたくなる、ストーリー上の安易な点はあるのだが、それを補って余りあるパワーに圧倒される。
「怪我を治してもらっただけで恋に落ちる恋愛弱者の主人公」
とか
「『街中をパトロールしてんの?』ってくらい、偶然出会うヒロイン」
とか
「柱の陰からニヤリと笑って主人公を見つめる悪いやつ」
とか。
普段の俺なら、「もう令和ですよ!」と監督に進言したくなるくらいレトロな演出だけど、もう、そんな細かいことはどーでもいい。それぞれのキャラが立ちまくりで、ガチバトルみたいな展開が絶え間なく続いていき、スクリーンに釘付けにさせられる。
俺が特に好きなのが、主人公ピーターと、伝説的ムリダンガム奏者の師匠。
主人公ピーターは、冒頭に書いたように低いカーストの生まれだが、持ち前の真っ直ぐさと努力、情熱で、周りのみんなにも良い影響を与えていく。
対して師匠。高いカーストで伝統を重んじるキャラなのだが、頑固で厳格であるが故に、周囲と衝突し、時代に取り残されていく。ちなみに「指を大事にしたいので、他人と握手はしない」ってくらいストイックな師匠なので、AKB48には入れなそう。
「スラムドック・ミリオネア」でも知られるA.R.ラフマーンの音楽が素晴らしいのは書くまでもないが、特筆すべきは頻繁に差し込まれるムリダンガムの演奏シーン。主人公役の役者(A.R.ラフマーンの甥っ子らしい)は、この作品のために1年間ムリダンガムを練習して撮影に臨んだという。師匠も老齢とは思えないほどの見事な指さばき。
師匠役の方は惜しくも2021年に他界されているということだが、イングヴェイ・マルムスティーンみたいな指さばきは観てるだけで惚れてまう。俺もストゼロを切らした翌朝はこれくらい指がブルブル震えるが、楽器は弾けないもん。
■インド観光ビデオシーン
冒頭でも書いたように、後半、ほぼ脈絡なく20分くらい「落下の王国」みたいな「インド観光案内ビデオ」みたいになってるのも、ポイント。
「♪いつになったら身分の差は無くなるんだ~」
って結構悲惨な歌詞の歌を歌いながら、楽しそうに歌い踊って観光地めぐりしてるの、インド映画らしくてホント好き。砂漠から雪山、豪華絢爛なパレスや少数民族の村など、この20分間、なんの脈絡もないけど目の保養になった。
■クライマックスのよく分からない大団円感
クライマックスは絵に描いたようなヒール役が暗躍する中での、エリートムリダンガム奏者とのTV番組でのムリダンガム対決。
「『ムリダンガム対決』なんて誰が喜ぶねん」って思ってしまうのだが、これが無理やりすぎる演出で盛り上がる。最後は観客も視聴者も審査員も含めてノリノリで、なんか「ヘイ・ジュード」感あって最高だった。
ということで、「なんでこれシネコンでやらないの?」ってくらい面白かった。観終わったあと速攻で南インドカレー屋に走って余韻に浸ってしまいました。
俺の観た回は、元力士俳優の田代さんという方が出演のトークイベントがあった。田代さんは、この監督と、インドに力士が流れ着くというインド映画「SUMO」でご一緒したらしい。この作品がヒットすれば「SUMO」も日本で公開される可能性があるそうなので、ぜひヒットしてほしいと思ってます!
(おしまい)