モリアーチー

ナチスの愛したフェルメールのモリアーチーのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

ザ・シネマの特集【アートの世界の黒歴史】で1/18に放送されたものを録画で鑑賞しました。字幕版です。ベネルクス三国の合作で言語はオランダ語でした。

この映画はオランダ人がフェルメールの贋作をナチスドイツに売りつけたという有名な贋作事件を題材にしていますが、あくまでも贋作(あるいはフェルメール風の新作)絵画を多く描いたオランダ人画家ハン・ファン・メーヘレンの数奇な人生を描くことに重点を置いています。

冒頭、アヴァンタイトルで『エマオの食事』によく似た絵が美術館に収められ、ブレディウス教授(実在したフェルメール研究家)の案内でオランダ女王が除幕する場面から始まります。そこにメーヘレンが現れ、ナイフでこの絵を切り裂きます。

こんな事実は無かったはずだけど?と戸惑いながら観ていくと、この冒頭のシーンは一つの大きな分岐点だったことがわかります。

タイトルの原題はオランダ語の”EEN ECHTE VERMEER”で英語なら“A real Vermeer”です。不定冠詞が付いているのでVERMEERはフェルメールの描いた絵を指すのでしょうか?副題として「事実に限りなく近い物語(EEN BIJNA-WAARGEBEURD VERHAAL)」と表示されます。

年老いたメーヘレンが拘置所に収監されています。冒頭の事件のためかな?と観客は思うかもしれません。裁判が始まり、メーヘレンが語る証言を再現する形で映画は語られます。

メーヘレンの数々のエピソードを挟んで、最初の妻アンナ・デ・フォーフトとの生活と息子ジャックへの愛情が丁寧に描かれます。そして後に第二の妻となるヨーとの出会い。この映画ではヨーはカーレル・デ・ブルの妻ではなくプレディウス教授の妻だったという大胆な改変設定がされています。

邦題はナチス好き(あるいはナチスという言葉に拘りのない)の日本人観客を引き付けるためのものでしょうが、終盤になってからようやく1940年5月のオランダ降伏後になり、占領軍としてのナチスに画商テオとメーヘレンが絵を売りつけて荒稼ぎをする様が描かれます。ナチスのゲーリング元帥も登場してテオから『姦通の女』によく似た絵を購入する場面も出てきます。

映画は英雄でも売国奴でもない、人間的には欠点の多い一人の情熱的な芸術家の生きざまを描いていました。

参考となる本は日本では少ないのですが、2007年にランダムハウス講談社から翻訳出版されたフランク・ウイン著、小林頼子・池田みゆき訳の『私はフェルメール 20世紀最大の贋作事件』があります。
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