francois708

夜の来訪者のfrancois708のレビュー・感想・評価

夜の来訪者(2015年製作の映画)
4.0
原作を先に読んだが、戯曲としての完成度があまりに高いので、かえって映画化がむずかしいのかもしれない。原作にはエヴァ・スミスは登場せず、しかし登場人物全員から言及され、想像され、哀悼されて、登場しないにもかかわらず絶大な存在感をだった。
映画ではやはりというか、当然と言うか、エヴァ・スミスが登場するわけだけれど、その分彼女の存在感は、逆説的に薄まったのかもしれない。そこにいないほうがかえってリアル、ということ、ありますよね。
女性の従業員が黙々と働く工場とそこに君臨する工場主の情景に既視感があるなあと思ったら、『未来を花束にして』(キャリー・マリガン、メリル・ストリープ)という女性参政権運動を描いた映画を思い出して、調べてみたらどちらも1912年の英国を舞台にしたものだった。
『未来』のほうが、労働者階級の女性たちの視点で描いたものを、こちらはブルジョワ階級の、社会的成功を手にした人々の視点から描くが、両者が無関係なのではなく、じつは網の目のように織りなされた一枚の織物のように分かちがたく結びついていて、自分には無関係のことと思い込んで見ないで済ますわけにはいかないのだということを、この映画は教えてくれる。
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