odyss

八百万石に挑む男のodyssのレビュー・感想・評価

八百万石に挑む男(1961年製作の映画)
4.0
【男たちのドラマ】

徳川八代将軍吉宗時代に起こった天一坊事件を素材にした映画です。

吉宗のご落胤と称する若者・天一坊が現れ、江戸に向かう。それを幕府がどう受け止めるかというお話です。史実では天一坊はニセモノとして死罪に処せられました。

これに対して、天一坊は本物のご落胤だったとする立場からの小説も書かれています。浜尾四郎のミステリーにそういう筋書きの作品がある。

さて、この映画では天一坊(中村嘉葎雄)が本物かニセモノかが微妙で、実は本人にもぎりぎりまで分からない、というところがミソになっています。

こうした中、天一坊をかついで徳川家への怨みを晴らそうとする武士(市川右太衛門)が主軸になり、着々と準備を進めていく。

他方、迎え撃つ徳川方も、首席家老(山村聡)や大岡越前守(河原崎長十郎)が諸策を講じ万全の体制で臨みます。

時代劇でありながら、派手な剣での立ち回りはありません。天一坊側と徳川側の心理戦めいたやりとりがこの映画の主筋を担っています。

それだけに、かえって役者たちの存在感や演技が問われているとも言えますが、この点でこの映画は見ごたえ十分です。特に市川右太衛門の存在感は他を圧しており、ふつうなら並みの男優を格下に見せる山村聡すら小さい人間に見えてしまいます。

逆に大岡越前を演じる河原崎長十郎の、ちょっと軽いけれど簡単には土俵を割らない二枚腰的なイメージが貴重。

自分が本物かニセモノかに最後まで悩む(現代風に言うなら、自分のアイデンティティに悩む青年である)天一坊を演じる中村の若さ・青さを含めて、男たちのドラマと称したくなる充実した映画。
odyss

odyss