櫻子の勝手にシネマ

第三夫人と髪飾りの櫻子の勝手にシネマのレビュー・感想・評価

第三夫人と髪飾り(2018年製作の映画)
4.3
一夫多妻制の理不尽なシステムの中で生き抜く女たちの生き様を、14歳という若さで嫁いだ第3婦人メイの視点から描く物語。

主人公のメイを演じたのはオーディションで900人の中から選ばれた新人グエン・フォン・チャー・ミー。
当時13歳だったにも関わらずメイ役を熱望し、親の反対を押し切って、少女から大人に成長していくメイの無邪気さと繊細さ、官能を見事に演じきったその姿はまさに圧巻。

映画の冒頭に『実話を基にしている』というテロップが流れるので調べてみたら、ベトナム出身の女性監督が曾祖母から聞いた体験談に基づいて制作されたそう。

「嫁ぐ日まで夫となる相手の顔を知らなかった」
「夫には既に複数の妻がいた」
「男児を産まなければ、“奥様”とは呼ばれない」
劇中でも見られるこのような慣習は現代人からすると信じられないものだが、日本でもその昔『大奥』が存在していたではないか。
『大奥』と言えば、女たちの愛憎劇が日夜繰り広げられる、ドロドロとした人間模様を想像するが本作はそういった修羅場はない。
ライバルである14歳の幼な妻は、むしろ第1婦人や第2婦人から可愛がられる。

本作は登場人物のセリフを必要最低限に抑え、代わりにハン一家が営む養蚕や日々の暮らしの風景、豊かな自然や水の流れなど、個々のカットがとにかく鮮明で美しい。
決してキラキラとした派手さはないけれど、全体を通して雰囲気は暗めで、始終ひっそりとした静謐感に満ちている。
美しいけれど憂いを感じる映像は、この家に嫁いできた女たちの哀愁を現しているようだ。

メイは女児を出産するが、娘の口にそっと黄色い毒花を添える。
このシーンは衝撃的ではあるが、女性の生きる道が限定されていた時代を考えれば理解できなくはない。
男児を産めなかったメイも“奥様”とは呼んでもらえない。

ラストで、自らの長い髪をハサミでざんばらに切り落とし、強い眼差しを向ける第2婦人の次女の姿が唯一、女性たちの未来への希望を暗示しているようで少し心が救われた。