猫脳髄

吐きだめの悪魔の猫脳髄のレビュー・感想・評価

吐きだめの悪魔(1986年製作の映画)
3.7
これは面白い。ひたすら下品なボディ・ホラーかと思わせて、実はブルックリンでたくましく生きるホームレスたちを映し出したコメディ作品である。監督J・マイケル・ミューロー(クレジットはジム・ミューロー)の10分間の卒業制作が下敷きになっている。本作が長編デヴューにもかかわらず、只者ではないので辿っていくと、ジェームズ・キャメロンやケヴィン・コスナー作品のカメラマンも担当した現役の撮影監督だそうだ。

廃車置き場をねぐらにする主人公の兄弟らホームレスのコミューンは、ベトナム帰りの凶暴な男に支配されていた。ジャンク屋の女性に同情を寄せられながら、ホームレスたちはそれぞれに器用に毎日を生き抜いていた。そんななか、酒屋が地下倉庫から発掘した数十年前のアヤシイ酒を飲んだホームレスたちが、次つぎと七色のヘドと化して溶解する事件が起こり、警察が捜査に乗り出すが…という筋書き。

グチャドロの人体損壊表現にたっぷり時間をさきながらも、事件解決の体は取らず、ホームレスたちに起こったいち事件としか取り扱わない。あくまで本作は"Sreet Trash"すなわちホームレスたち自身の生きざまと、廃車置き場の支配者との対決を描写することに傾注している。作品全体もコメディ基調でカラッとしており、陰惨にしないところに好感が持てる。

最初の犠牲者の溶解や切断したペニスがひたすら宙を舞うコメディ・シーン、たっぷり1分以上をかけた肥満ホームレスの爆死やクライマックスの敵役の撃退ショットのスローモーション(ボディなめで遅れて首が落下してくる!)のケレン味たるやカタルシスを感じるに十分である。風変わりながら、なかなかの異彩を放つ良作。
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