MasaichiYaguchi

ナディアの誓い - On Her ShouldersのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

4.0
難民について分かっているつもりでいたが、ISISの少数民族ヤジディ教徒の虐殺により母と兄弟を殺され、本人は性奴隷にされてしまったナディム・ムラドに密着したこのドキュメンタリーを観ると、その認識が未だ浅いことを痛感させられた。
原題“On Her Shoulders”を訳すと「彼女の双肩にかかった」になるが、正にナディアにヤジディ教徒の存亡がかかっているのが映画の様々なシーンから伝わってくる。
ドキュメンタリーではないが、本作と同様なモチーフを扱った映画で「バハールの涙」というのがあるが、ヒロインのバハールは捕虜となった息子を救う為に武器をとって戦いに身を投じていく。
そのバハールに対してナディアは言葉によって自らが被った性暴力や親族を含めた人々が虐殺された非を全世界に問うていく。
邦題は「ナディアの誓い」になっているが、私には「ナディアの闘い」の方が内容に合っていると思う。
彼女の闘いは“両刃の剣”で、ISISの“犯罪”を告発するには自分や周りの者が受けた性暴力や虐殺の詳細を、メディアが興味本位で尋ねる度に話さなければならない。
それは恰も心の傷口に塩を塗るのに等しく、筆舌に尽くし難い痛みが伴う。
だが、たとえ自分がボロボロになってもISISに捕らわれている、若しくは辛くも逃れて難民キャンプで暮らす同胞の為、“現状打開”の為に彼女は声を上げ続ける。
先進諸国が重たい腰を上げない膠着状態の中、彼女の“一念岩をも通す”努力は少しずつ実を結んでいく。
このような彼女に対して、思わぬ“セレブの助っ人”が現れて強力にアシストしていく。
彼女がなし得たことは大きなことかもしれないが、それは世界を覆う難民問題において一歩踏み出したに過ぎない。
日本に難民はいても、メディアでクローズアップされることは殆どなく、“縁のない”問題と捉えている人が多いような気がする。
オリンピックが開催される今年、グローバリズムからも我々も難民問題に向き合う時期にきていると思う。