たく

消えた16mmフィルムのたくのレビュー・感想・評価

消えた16mmフィルム(2018年製作の映画)
3.7
本作の監督であるサンディ・タンが、20年以上前に自主制作した作品のフィルムを彼女の映画の師匠である謎の男に奪われた経緯を追っていくドキュメンタリー。彼女が才能溢れる人であることは本作を観れば分かることで、弟子の成功に嫉妬するという器の小ささがシンガポール映画界における1本の傑作を失わせた罪は大きい。本作は監督自身が過去の経緯を追うことで己を見つめ直し、作品に昇華させるという、ある意味で自分の過去の供養みたいな作品になってたね。

少女時代から世間と異なる価値観を追い求めてきたサンディ・タンが、国の検閲の目をくぐって海外の様々な文化を吸収し、価値観を共有する友人たちと共についに本格的な自主制作映画である「シャーカーズ」の制作に着手する。彼女の才能を認めたジョージが不思議なカリスマ性を持つ男性で、タンの師匠として映画作りを導いていくんだけど、制作が進むにつれて彼の行動に怪しさが見え隠れするようになる。

劇中に数々の名作映画が登場するのがワクワクする。それはゴダールであり、ベルイマンであり、ヴェンダース、ヘルツォーク、ソダーバーグなどなど。でもフィルムを奪われたことで映画評論家、そして小説家に転向したタンが、「天才マックスの世界」や「ゴーストワールド」の一場面に「シャーカーズ」の面影を見るあたりは哀しかった。フィルムを奪われたと言いながら、なんで劇中に「シャーカーズ」の映像が流れるのか不思議だったけど、ジョージはフィルムを捨てたんじゃなくて大事に保管してたんだね。ここに彼の作品に対する屈折した愛情が窺えて、ちょっと「アマデウス」のモーツァルトとサリエリの関係を思わせた。
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