大道幸之丞

蜜蜂と遠雷の大道幸之丞のネタバレレビュー・内容・結末

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

プロを目指すピアニスト4人の切磋琢磨の青春群像劇。

簡単に言えば「ライバル」のハズが、お互いに自己を向上させる為に必要な存在となっている。まずキャスティングが良い。

4人が皆主人公と言ってもよいような状況だが、一応主人公は栄伝亜夜(松岡茉優)で、5才から「天才少女」の名を欲しいままにしていたが、13才のときにマネージャーでありピアノの先生でもあった母親を亡くしそれ以後界隈から消息を断っていたが、20歳で突然芳ヶ江国際ピアノコンクールに姿を現す。ドラマはそこからスタートする。

原作は恩田陸の作で「直木賞」作品。本作を観るだけで、ピアニストの素行やコンクールを中心に綿密な取材を遂げた事はよく分かる。この作品はカテゴリとしては剣豪小説や棋士のように「切磋琢磨」を柱にしているが、私には一枚作者の意図が挟み込まれている感触にやや違和感があり、本作を観ただけで「ピアニストとは」を不用意に語ることは出来ない気分がある。

それはあくまで恩田陸が取りまとめ、結論付けた「ピアニスト像」であって、それがごく普遍的なものかはおそらく話が別な気がする。

音楽を奏でる者も人間であり、音楽も人間が介在して発生する。境遇も生い立ちも原点も個性もバラバラでありながらこの4人は「音楽」の価値観を共有しつつある。

栄伝亜夜は一時は迷宮をさまよっているような感覚で自身とピアノの関係を見失っていたが、仲間のおかげで拭えなかった力みもとれ、自然な格好で自身に向かい合えるようになってゆく。

石川慶監督お気に入りの眞島秀和もピアノ調律師の役柄で出演している。

女性なら無条件に本作を楽しめると思うが、男性であれば「この映画、何を言いたいのかな」などと考えすぎて楽しめないかもしれない。メッセージ性は強くないが、音楽家の心中を覗き見できたように錯覚できる作品だ。

「海の上のピアニスト」もそうだが、傑出した人物が弾くピアノは当然フキカエでカメラを細かく切り替え、あたかも俳優が弾いているかのように編集する。本作でもそこを苦心して違和感がないレベルにまで編集されているのは評価したい

原作には「映像化は不可能」とまで言われていたそうだ。絵作りは全体的に褪せたようなトーンに感じるが、これも過去と現在を行き来する本作に良い味付けをしてくれている。