イホウジン

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のイホウジンのレビュー・感想・評価

3.8
裏テーマを楽しむミステリー

この物語は「一人の男の死の真相」と「彼の遺産相続をめぐるトラブル」という2つの軸で展開されるのだが、興味深いのは、これがミステリーであるにも関わらず、後者が前者に対して必ずしも重要な要素とならない点だ。確かに犯人の動機などに影響は及んでいるが、それが物語全体を左右させるまでには至らないし、最後もある意味消化不良な感じでオチが着く。
だが、その後味の悪さこそが、この事件の背景にあるイギリス社会の暗い部分を観客に対し暗示させる役割を担っている。経済的な寛容と政治的無関心が共存する様は、移民の看護師の国籍について一家の誰も正確に把握していない点からもよく分かる。またその寛容さがいとも簡単に排他主義へ転向してしまう様も、中盤以降丁寧に描かれる。これらは正直「ミステリー」の範囲外の出来事である。しかしながら、それでもなお描かれた一連の要素は、ただ目の前にある事件を解決して終わりとしない、むしろ作品としての質がより高い映画に今作を仕立て上げることに成功しただろう。
(ちょうどコナンの『ベイカー街の亡霊』が一貫して“遺伝子”を作品の裏テーマにしていたのにも似ている)

そこそこ大きな一族の家が舞台のため、登場人物は比較的多い方なのだが、一人一人に見た目と性格の個性的なキャラ付けがされており、識別がしやすかった。それでいて主人公や移民の看護師、嫌われ者の青年など、物語的に目立つべき人物はしっかりと目立つように工夫されており(嘔吐ネタなど)、頭に入りやすいストーリーでもあった。
イホウジン

イホウジン