KnightsofOdessa

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

2.5
[エルキュール・ポアロ版『犬神家の一族』] 50点

犯罪小説家の大富豪が誕生会の夜に自身の大豪邸で亡くなり、その子供たちの醜い遺産相続戦争が幕を開けるとなれば、それはもう『犬神家の一族』だ。亡くなったハーラン・スローンビー翁の名を冠して『スローンビー家の一族』と呼んでも差し支えない。流石に佐清は出てこないが。そして、そこに登場するのは仏語風の名前を持つ胡散臭い自意識過剰な探偵ブノワ・ブランであり、同じく仏語圏(ベルギー)出身で尊大で自意識過剰な名探偵エルキュール・ポアロを想起させる。それを演じるダニエル・クレイグを含め、ジェイミー・リー・カーティスやらドン・ジョンソンやらマイケル・シャノンやら、最早『ヘレディタリー / 継承』の顔芸を求められている気すらするトニ・コレットやらとこれでもかと胡散臭い人たちを投入し、マーベル明けのクリス・エヴァンス、大好きなアナ・デ・アルマス、新進気鋭のジェイデン・マーテル(『It』二部作)とキャサリン・ラングフォード(『十三の理由』)も登場し話題性も十分だ。これがスター・ウォーズを好きなだけ引っ掻き回して一抜けしたライアン・ジョンソンの作品なんだから、一番得したのは彼なのかもしれない。

物語は家族の事情聴取から幕を開ける。スローンビーの遺された家族たちは強制的に参加させられ、ハーランとの良好な関係を刑事たちにアピールしながら、他の兄弟夫婦が怪しいと密告し合い、『藪の中』のように死亡直前の誕生会をモザイク状に再構築していく。不倫を指摘されたリチャード、父の本を出版していた会社を解雇されることになったウォルター、手当を切られることになったジョニ、そしてハーランと口論していたというランサム、皆それぞれ動機があり、皆それぞれが怪しい。そんな中、ハーランと唯一良好な関係を築いていた看護師のマルタはまた違った視点を与えてくれる。彼女は『犬神家の一族』でいう野々宮珠世であり那須ホテルの女中はるさん(アルマスだけに坂口良子だよね)に相当する立ち位置であり、"嘘を付くとゲロ吐いちゃう"という奇妙な設定をうまく活かした人間嘘発見器として地味な活躍を見せる。

ダニエル・クレイグとラキース・スタンフィールドが石坂浩二と加藤武で、ついでに可愛いのでアナ・デ・アルマスも坂口良子枠で出して、市川崑みたいにシリーズ化出来るじゃないかと思った次第である。『エイリアン』シリーズみたいに監督を変えても出来る。最高かよ(棒読み)。


★以下、若干ネタバレしているかも(流石に犯人に言及したりはしてません)

残念な点を上げるとしたら、超スピードで展開していく最近の映画らしく、謎解きはあっという間に観客に示されてしまい、込み入った人物関係はほとんど役立たなくなってしまうことだろうか。魅力的なアンサンブルは単なる背景と化し、犯人と僅かな重要人物以外は"文句を言う有象無象"に早い段階で変化してしまうのだ。また、典型的なミステリー映画の場合、それこそ金田一耕助にしろエルキュール・ポアロにしろ、"次の殺人"を使って物語を強引に進めていたが、本作品では聴取に現れない人物を配置することでモンタージュ作成の時間を稼ぎ、マンネリ化を防いでいる。しかし、その人物が新たな視点をもたらす頃には、物語は別の方向へシフトしてしまっているので、真打ち登場とまではいかない。

それでも、ヴァン・ダインの二十則をぶち破る適当な推理っぷりは最高で、後出しジャンケンも血反吐を吐いて平伏すだろう超展開を迎えるラスト30分は最早私の許容範囲だ。アナ・デ・アルマス可愛いし。そういうことだろう。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa