こなつ

僕たちは希望という名の列車に乗ったのこなつのレビュー・感想・評価

4.0
この物語は、ベルリンの壁が出来る5年前、東ドイツのある街の高校で起きた実話です。当事者の1人ディートリッヒ・ガルスカのノンフィクション「沈黙する教室」を基に、「アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男」のラース・クラウム監督が映画化。

1656年、冷戦下の東ドイツ。高校生たちのたった2分間の黙祷を国家は決して許さなかった。友情を取るのか、裏切ってエリートの道を進むのか。それぞれが家族を巻き込み人生の決断を迫られる。

東ドイツの鉄鋼の町スターリンシュタットのエリート高校に通うテオとクルトは、墓参りの名目で行った西ベルリンの映画館で、ハンガリーの民衆蜂起を伝えるニュース映像を見る。ソ連による軍事介入で多数の犠牲者が出ていることを知り、怒りを感じた2人は、ただ犠牲者を哀悼したいという純粋な気持ちから、級友達に呼びかけて授業中に2分間の黙祷を行った。だがこの行為は、ソ連の影響下にある東ドイツにおいては体制への反逆行為とみなされ、当局による厳しい調査が入り次第に追い詰められていく。

郡学務局の女性局員ケスラーの高校生達に対する執拗で陰湿な尋問は、正にナチスと変わらない。ナチス・ドイツの傷跡が色濃く残る冷戦下の東ドイツ。それでも友人を裏切り、仲間を売ることを強いる国家に自分達の信念を貫こうと闘った高校生達の姿に強く心打たれた。彼らは自分達の人間性を必死で守ろうとしていた。

クラスが閉鎖され、卒業試験を受けることが出来なくなった彼らは、大学進学のために西ドイツで卒業試験を受けるため、皆で西ドイツに逃亡を図る。東ドイツに残った4名を除いてほぼ全員が列車での出国に成功。卒業試験も受けることが出来た。

実際の街は、「シュトルコー」という名前の街だったが、東西統一によってすっかり現代的な街になっていた為、撮影は今も当時の製鉄所が残るスターリンシュタットで行われた。映像では旧東ドイツの労働者の姿の一端を垣間見ることが出来る。登場人物の名前を変えたり、キャラクターを脚色したりしてはいるものの、それ以外は本当に起きたことが描かれている点で非常に興味深い。

本作のために発掘された新人俳優たちがフレッシュでとても良い演技をみせ、旧東ドイツ出身の実力派キャストがしっかり脇を固めている。

物語は、彼らが東ドイツから列車で西ドイツに向かうところまでだったが、その後の事がとても気になった。「沈黙する教室」によれば、壁が壊された後に40年後の同窓会が東ドイツの母校で開かれ、先生達とも話す機会があったようだ。彼らが本当の自由を手にするには、どれほどの年月と苦労があったのかと思うと辛い気持ちになるが、この物語は決して戦争の悲惨さを訴えているわけでなく、家族を思い、友達を思い、自分の未来に向かって一生懸命生きて行こうとした若者達の美しい姿が満ちている。
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