YAJ

僕たちは希望という名の列車に乗ったのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

【19 Luftballons】

 かなり良かった!『12ヵ月の未来図』に続いて学園もの、というか、これもまた奥さんのアンテナに引っかかった作品。教師の嗅覚、近頃冴えてます(笑)
 時は1956年。大戦後の世界、ナチもの(少しだけ)という括りでも、近年の我が家の守備範囲にも収まるもので、珍しく公開間もないタイミングで鑑賞。
 おじいちゃん割引のないBunkamuraだけど、毎週火曜はサービスデー。そこを狙って(^^)v

 場所が渋谷ならドイツ料理にも事欠かないし(作品に因む食事をする我が家ルール@2019)、鑑賞前にしっかり腹ごしらえ。お腹いっぱいで、つまらなかったら寝るかも~、なんて思いながら座ってたけど、ずっと良い緊張感の中で鑑賞できました。

 第二次世界大戦後、ベルリンの壁が出来るまでの時代。こんな緩衝的な時期があったんだというメカラウロコと、自由への渇望、抑圧への抵抗。若者の、というかヒト、あるいは生き物としての、抑えがたいリスクへの挑戦意欲という普遍的なテーマを、ソ連の影響下にある東ドイツを舞台に描いた問題作。

 同じ東欧での民衆蜂起(ハンガリー動乱, 1956/10月)に触れた東独の若者たちが純粋な気持ちで捧げた黙祷が国家反逆行為と見做され、クラス、学校を越えて大問題に発展する。
 首謀者を暴くため、団結するクラスメイトたちに様々な手練手管で揺さぶりをかけてくる権力者たち。友情か裏切りか!?戦争当事者だった親の世代との確執、親としての愛情と世渡りに長けた助言に、子らはどう反応するのか!?

 若気の至りとも言える子の行動が、親たちの秘してきた気持ちにも波紋を広げる。戦時中の己の行動、戦後の身の処し方。大人の事情と承知しつつも、果たして良かったのかと己の半生を省みる親、教師世代の葛藤も巧みに描かれる。

 いろんな要素がぎっしり詰まった実に濃厚な物語。これが実話を基にしているという点でも刮目に値しようかというもの。
「生命は押さえつけられない」、マルコム博士@Jurassic Park(1993)の名セリフが蘇る。Life finds a way. このシンプルな行動原理の尊さを再認識させてくれる佳作!おススメ!!



(ネタバレ、含む)



 この作品が素晴らしいのは、親も子も、自らの判断で、何かを選びとるシーンが描かれていること。
子らは反逆を貫き通す。親はリスクを避け、将来の安定を見越して子らを諫めようとするが、それでも最後には西へ行くこと(=国を捨てること)を許容する。
 どちらの行いも崇高で美しく見えるのは、その判断の正誤云々ではなく、それぞれが自らの意志で道を選択したからに他ならない(Life finds a wayだ!)。

 子どもたちの行動は、当時の東ドイツ、社会主義国家にとっては反逆行為であるが、それは体制から見た話。その選択が、正しいのか間違っているのかは誰にも分からない。そんなことは二の次だ。コトに当たって己の判断はあったのか!? その選択する意志の尊さを見事に描き切っている。

 生き物としての本能を放棄し、自分の考えで動くことのない日々が楽でいいと安穏に暮らしている現代人は彼らに学ぶべきだろう。この時代と異なり、今の世は幸いなことに、自分で考え行動したくらいでは「国家の敵」とはならないのだから。
 映画では、結果、クラス19人のうち15人が国家を捨て「希望という名の列車」に乗ることを選ぶ(珍しく邦題もハマっている)。映画は、その選択をしたところで終幕。その後の彼らの行く末は敢えて描いていない。お見事!

 『JURASSIC PARK』のセリフを思い出していたけど、全編を通じて「~っぽいなあ」と思ったのは『St.ELMO’s FIRE』(1985)でした。大学生の頃、一番繰り返し観た作品。野島伸司脚本のTVドラマ『愛という名のもとに』の元ネタとも言われてるので知ってる人も少なくないと思うけど、いわゆる青春群像劇。歴史に翻弄された本作の若者たちと較べると、なんともお手軽な(身近な?)色恋沙汰、仕事のストレス、己の未熟さに悶々とする若者たちの物語で、親近感を抱きやすい等身大のお話。
 本作の主人公のクルトがロブ・ロウに、テオがアンドリュー・マッカーシーに見えて(性格は違うけど)、クラスを巻き込んだ偶像劇という設えが、「っぽい」のでした。そんな点でも、青春っていいなぁ、悩める若者は瑞々しいなぁ、と遠い目で鑑賞。
 この映画の若き出演者たち、『St ELMO's~』に代表されるかつての”ブラットパック”のように、将来のドイツ映画でたびたび見かけるようになると嬉しい。

 そんなことで、いろいろと類似点もあるのに、イマイチこの作品が話題になっていない(ように思う)のは、なぜだろうと考えた。『St.ELMO’s ~』が(実は)大した筋書きのドラマじゃないのに、なんなら名作のひとつとして数えられ、YAJなんかがヘビロテで観れたのはなぜか?!
 それはBGM、テーマ曲のお蔭じゃないかと思い至った(そんな点で、ハリウッドの営業戦略は実に長けている)。
 『St.ELMO’s~』は音楽をDavid.Fosterが手掛けており、キャッチ―な挿入歌がふんだんに劇中使われている。サントラも聴き応えあるし、テーマ曲を聴いただけで、今でも涙目になれる。
 本作には、それがない。

 せめてエンディングに印象的な主題歌を採用できなかったものか。あの『ダンボ』のように日本版エンディング(by竹内まりや)だけでもいいじゃん(笑)あるいはクラシックのキャッチ―な名曲でもいい(『クレイマークレーマー』のヴィヴァルディの「マンドリン協奏曲ハ長調」をイメージ)。
 ドイツの人気歌手に書き下ろしてもらうのが一番だけど、過去に世界的に名の知れたドイツのアーティストはいなかったものか?などなど反省会で議論した。
 そこで、うちの奥さんの提案は、Nenaの『99 Luftballons』だ。邦題「ロックバルーンは99」で知られる80年代のヒットナンバー(https://youtu.be/La4Dcd1aUcE)。
 聴き直してみて、悪くない。いや、実にイイ!! 当時は歌詞の内容まで知らず耳にしていたけど、反戦歌なんだね。内容的にもバッチリじゃね??? Nenaがもう過去の人っていうなら、今どこかのアーティストにカヴァーさせればいい。なんなら、クラス19名の反逆のお話なんだから『19 Luftballons』にして!(笑)

 本作には原作がある。主人公クルトは、その著者ディートリッヒ・ガルスカの若き日の姿らしい。この原作『沈黙する教室 1956年東ドイツ―自由のために国境を越えた高校生たちの真実の物語』は、その40年後のことも描かれているという。実に興味津々だ。
 近々、読んでみようと思う。BGMに『99 Luftballons』を流しながら。
YAJ

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