馮美梅

象は静かに座っているの馮美梅のレビュー・感想・評価

象は静かに座っている(2018年製作の映画)
4.0
4時間弱の長い作品。気合い入れてみないとと思ったけど、大丈夫だった。

眩く発展していく中国の中で、その眩さの下でそんなことは関係ないと言わんばかりの虫たちのように、この作品の中には眩い中国は出てこない。

青空もない、明るさもない、人も優しくない、登場人物はことごとく自分のことしか考えていない。親も、学校も、生徒も、先生も、子供も全て。

寒々しい風景は同時に登場する人々の心情もそうだ。
大人に希望がないのに子供に希望なんてあろうはずもない。
金を持つものが絶対で、持たないものはやられ放題。

作品の中で年金生活者の男性ジンが娘夫婦と同居してるけれど、自分の家なのに自分が寝ている場所っていわゆるベランダ(サンルームみたいな感じ?)の部分。そして今、義息から子供の教育のために引っ越しをしたいから住んでいる家を売って、ジンは老人ホームに入居してほしいと言われている。実際今の中国ではジンのように自分の家なのに子供たちに財産などを奪われたり、家を取られそうになっている老人が問題になっている。

子どもはそれに対して罪悪感など感じず、自分たちのこれからの生活の事しか考えず、親雄の確執が問題化している。

色々あって一旦は老人ホーム生活も悪くないのかと思って見学に行ったジンだが、そこは老人が生きながら死んでいるような場所だった。

学校でのいじめ、ブーも家にも学校にも居場所を見つけられず、友人のカイがクラスのいじめっ子でブーの父親が働いていた会社の社長の息子のシュアイからカイが盗んだと思われる携帯を返せと言われ、不遇にもシュアイが階段から落ちて重体になる。

同級生のリンは母親が自分にかまうことなく、今は学校の教師とただならぬ関係に。その現場をシュアイに撮影されて動画を拡散されることになる。

ブーを探すシュアイの兄・チェン。友人の妻と一晩過ごし、そこへ友人が帰ってきた。チェンを見つけた友人はそのまま窓から身を投げて死んだ。

何とも救いようのない中で、ブーは「満州里の動物園に座ったままの像がいるらしいから自らこの目で見て見たい」と思う。

物語はみんなそれぞれが目覚めてからほぼ1日の出来事をブー、チェン、ジン、リーの映像が切り替わり進んでいく。残酷なシーンはあえて主人公たちのアップにしたり、ジンのシーンではチェンやリーが遠目でぼけて写ってみたり、カメラワークも面白い。こういう撮影方法だと、確かに編集でカットすると物語がぶつ切り状態となって、見ている人間も疲れてくるだろう。

とはいえ、物語はあくまでそれぞれいるので流れるようにとはいかない、しかし見ているものにとってそれは決して苦ではない。

屈折した感情を抑えるすべも、解決する方法も持たない人たちが結局集まり向かうのは満州里に行くこと。実際象がいるのか?象を見ることができたのか?その後ジン、リー、ブーがどうなるのかそこはわからない。

でも、満州里に向かうこの人時だけは彼らにとって一筋の希望に輝いている瞬間なのかもしれない。

監督のフーボーはこの作品で燃え尽きてしまったのかもしれない。
光り輝く未来がきっと彼にはあったはず、でもそれをどういうことであれ自ら手放してしまったことは残念。この作品に関しても、もっと色んなことを聞きたかった。この作品を経て次にどんな作品を作ってくれるのか知りたかったし観てみたかった。

眩く発展していく今の中国のもう1つの現実の中国をこの作品に封じ込めたと思う。
馮美梅

馮美梅