Hiroki

ウエスト・サイド・ストーリーのHirokiのレビュー・感想・評価

3.6
3月4月はアカデミーノミネート作品に昨年のカンヌコンペ作品、さらにバットマンだのファンタスティックビーストだのソニー・スパイダーマン・ユニバース(スパイダーマンのヴィラン)なんかの大作から、今泉力哉やマイク・ミルズの新作まで幅広く大量にラインナップ。
さーどれだけ劇場で観れるでしょうか。
楽しみのような。恐ろしいような。

前置きしておきたいのは私はリメイク作品があまり好きじゃない。
好きじゃないというよりオリジナルを観ればいーやんと思うタイプ。
なので最近話題でアカデミーノミネートされた作品も観ないと思います。オリジナルのフランス映画は観ましたが。
リメイクするのなら例えば国を変えるならその国の文化や歴史を、時間を経て作るならその時代の背景や問題を、せめて反映させて欲しいです。
でもやっぱりリメイクならリブート、それよりオリジナル作品をなるべく観たいなーと思います。
そーいう人間のレビューだという事を前提で読んで頂ければ幸いです。

まず素晴らしかった点はマリヤ役のレイチェル・ゼグラーとアニータ役のアリアナ・デボーズ。
2人とも歌が感動するくらい上手い。
周りも上手いとは思うけど、この2人が本当に凄すぎて他は全員霞んでしまってました。
この2人実はレイチェル・ゼグラーが父親がポーランド系/母親がコロンビア系移民で、アリアナ・デボーズが父親がプエルトリコ人というまさにこの物語を演じるにふさわしいルーツを持っている。
アリアナ・デボーズは『ザ・プロム』で知っていたけど、レイチェル・ゼグラーは初見でした。
そして彼女は若干20歳(オーディション時は16歳)との事。
これからが非常に楽しみです!

そしてダンスも軒並み良いです。
やはり体育館でのダンスパーティー(パーティーというよりバトル)は圧巻!
まさにこの作品のハイライト。

基本的にミュージカル映画には細かい物語のディテールなどは求めてない(というかたぶん不可能)なので、ストーリー的な疑問点はたくさんありましたがそれは良しとします。
実際ミュージカルや61年版のオリジナルにもそーいう点は散見されるので。
それよりも気になったのが、元のミュージカル(57年)や61年版は当時、問題になっていたポーランド系移民(先に移民としてきた白人)とプエルトリコ系移民(後から移民としてきたラティーノ)の物語を描く必要があって描いた事に対して、今回のリメイクに何の進歩や発展があったのかが私にはわからなかった事。
たしかに現代の状況を暗示していると言われればそーなのですが、それはかなり大枠での話のように感じる。
せっかくリメイクするなら元の良さを活かしつつ、もっと現代の物語へと進化させなければ作る意味がないと思った。

しかも今作より先に同じウエスト・サイド(細かくはワシントン・ハイツ)のその先の移民(プエルトリカンを含めたラティーノ)の物語を『イン・ザ・ハイツ』という素晴らしいミュージカルにてリン=マニュエル・ミランダが描いている。
これが悲劇の始まり。せめて今作を先に公開できていれば…(撮影時期は同じくらいだったらしいですが。)
ミランダはインタビューで、
「私は高校で『ウエスト・サイド・ストーリー』を演出したことがありますが、定番のミュージカルの中には、自分の強みを発揮できるものがないことに気づきました。そこで"足りないものを書こう "と思ったのです。〜中略〜愛を持って自分自身を、自分たちの住む地域を語ることができないだろうかと。」
と話していたが、まさに今の現状を語るには『ウエスト・サイド・ストーリー』では不十分なのだと思う。作られてから60年も経てば当たり前ではあるのだけれども。(2009年にミランダはブロードウェイで一部をスペイン語にして再演。)
その作品をリメイクする意味とは?
それなら今のスピルバーグの想いを新しいミュージカルにして観せて欲しかった。
スティーブン・ソンドハイムは亡くなる前に鑑賞して良かったと話してたみたいだけど、昔の人々で懐かしんで「あの頃はねー」って言ってるだけならそれはただの同窓会映画じゃない?

あとこれはもーたぶん完全に個人的な意見で全然感じない人もいたと思うけど「やっぱりスピルバーグにミュージカルは無理だー」と思いました。
スピルバーグが素晴らしい映画監督である事は疑う余地ないけど、ミュージカルはミュージカルクリエイターが作らないと。
近年ミュージカル映画ブームでミュージカル大作たくさん作られてるけど、ミュージカルはやはり普通の映画と仕組みが違うので。
端々で違和感とかなんか違うんだよなーみたいな気持ち悪さがありました。
しかも音楽監督のデヴィッド・ニューマンも通常の映画とかアニメを主戦場にしてる人なはず。
音楽も「あの名作が蘇る」と言えば聞こえはいいけど、私には効果音とかも含めて全体的に時代遅れの産物に思えてしまった。
61年版では素晴らしかったけど、少なくとも2021年に堂々と発表するようなモノではなかったような。
スピルバーグが自分でどーしても撮りたいならせめてここはミュージカルを専門にしてる人を音楽監督にするべきだったのでは…

なので(プエルトリカンを白人が演じていたり、歌唱を別人が録音していたりという問題はあるけれど)古き良きあの頃の物語を懐かしむなら61年版を、今の新しいマンハッタン・ウエストサイドの物語を感じたいなら『イン・ザ・ハイツ』をそれぞれ観ればよいのではないかなーと156分かけて観た後に思いました。

オスカーは主要7部門ノミネートですが、どーでしょうか?
まー作品&監督賞は無理だと思うので、助演女優賞のアリアナ・デボーズは可能性あるかな?
ただ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の2人が強そうな気はするけど…

2022-27
Hiroki

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