マーチ

男はつらいよ お帰り 寅さんのマーチのレビュー・感想・評価

3.8
〈東京国際映画祭2019にて〉

「日本に寅さんがいて本当に良かった」と、万感の思いに駆られるシリーズ50作目。

今作は、ここまでのシリーズ全49作を観た男はつらいよファンへの感謝と餞が詰まったような作品のため、正直シリーズ初見の人にはそんなに優しくない。(だからそこのあなた!まだ観ていないなら、今からでも遅くないから今すぐにでも全49作観て!絶対に最高だから!!笑)

50年の歳月と50作の歴史が身を結んだことで成し遂げられた世界のどこにも無い比類なき傑作であり、リマスターされた過去作の映像が度々挿し込まれることでファンが笑いと感傷に浸り、シリーズ全作を思い起こさずにはいられないものとなっている。

やはり今回も主軸となるのは満男。満男が回想する寅さんとの思い出が、過去作シーンへの導入になるという歴史あるシリーズならではの大胆で斬新な構成。48作から50作の間に、酸いも甘いも経験し、人生のターニングポイントもいくつか通過した満男が久々に泉ちゃんやリリーさんに再会するのだが、さくらや博をはじめとした演者たちの年齢の重みもあって泣けるし、円熟味の感じられるものとなっていてエモさの連続。シリーズに思い入れがある人ほどドバドバ泣けて、もう正気では観ていられないと思う。笑

過去作の印象的なエピソードのモチーフが現在時制で登場するのも最高に面白い! 人によってはすぐ気付いて笑ってしまうだろうし、案の定そのモチーフに反応するかの如く現在と過去を振り返りながら今作は進んでいく。主要キャラたちの“その後”の姿を見ているだけで嬉しくなってしまうし、それぞれがそれぞれに歩んだ人生の軌跡も感じられるような内容になっていて、描写もそれに伴っているもんだから秀逸でしかない。

とまあ、まだ公開まで割と時間があるのでここら辺にしておきましょう。「あの曲がここで!」とか言うだけでシリーズファンならどういうことなのか分かってしまうし、初見の驚きや感動を奪いたくないので。

とにかく、日本が世界に誇る最高のシリーズが素晴らしい幕切れをしてくれたことに感謝しかない。「山田洋次監督ありがとう!」だし、「渥美清さんやっぱり最高だよ!」だし、「我が寅さんは永久に不滅です!」だし、「男はつらいよ 愛してまーす!」だし、久しぶりに復活する作品が残念な続編になってしまうケースが多い中で、よくぞこの様な完璧な“続き”を紡いでくれたことに感謝してもしきれない。

時代は移ろい、失われていくのが常な世知辛いこの世の中で、変わらずにただ真っ直ぐと葛飾柴又から人々の指針として在り続けてくれていたことに「ありがとう」を。

また、年末に帰って来ます、皆で盛大に迎え入れてあげましょう、きっと店の前でうろちょろしてすぐには入ってこないでしょう、場を荒らすでしょう、それでいいじゃないですか、「お帰り 寅さん」。
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