カラン

クリエイターのカランのレビュー・感想・評価

クリエイター(1985年製作の映画)
4.5
カルフォルニアの小さな大学で医学の教授をしている初老のハリー・ウォルパー博士(ピーター・オトゥール)はエキセントリックな教官で、ノーベル賞の受賞歴があるが、大学の研究設備を盗み出しては自宅の庭の小屋に持ち込んできて、科学的なアプローチで、妊娠中に亡くなってしまった妻への想いにすがりついていたのであった。ハリーが強引に新しく雇った若い研究助手(ヴィンセント・スパーノ)が、同じ研究室の(ヴァージニア・マドセン)に一目ぼれし、他方で、自称・色情症のメリ(マリエル・ヘミングウェイ)からは卵細胞のサンプルをもらう、ファンタジー多めのドタバタ、ロマンティック・コメディ。

監督はチェコ・ヌーベルヴァーグの重鎮であるというイヴァン・パッセル。非常に丁寧である。感動したのは、ヴィンセント・スパーノがヴァージニア・マドセンの部屋を訪問して、冷蔵庫を背負ったところで、POVでヴァージニア・マドセンへの思慕を表現するところ。家の戸口に続く傾斜の小道には木が生い茂っており、その枝葉の間に彼女が映り、時が止まる。コメディなので、植え込みのなかに倒れて、冷蔵庫を壊す。この永遠の勘違いをラストでの彼女の回復にまで繋げるために、海辺やシャワールームでは若者らしい初々しさでしっかりと絡む。

他方で、ピーター・オトゥールは身重の妻を幻視して、とても寂しそうな表情ではあるが、若い女と結びつくし、子供を作る。その若い女は老人に生の活力を与える女でなければならない。「私はニンフォマニアなのかな?」というマリエル・ヘミングウェイは非常に溌剌としており、見た目以外のオーラを発散できる女優として選んだのであろう。若者同士の恋と失くしたものを探している老人の新しい恋の対比が、非常に丁寧に、計算されたキャスティングで表現されている。

卵の培養、色情狂、若者の恋、老人の再生、脳死、、、はちゃめちゃなのだが、ポイントをしっかりおさえて、ファンタジーを発露すべきところは全開でいく。非常に気持ちがよかった。


奥さんを幻視してはもの凄く寂しげな笑顔を浮かべるピーター・オトゥールは、チャコールグレイのウールの上着のライニングがショッキングな赤で洒落者。海辺でボーダーにPコートの組み合わせも素敵。撮影当時は50代前半であるが、わざとだと思うが、よろよろと足を広げて自転車に乗ってみせて、1987年の『ラストエンペラー』よりもずっと老け役をしている。

レンタルDVD。55円宅配GEO、20分の6。
カラン

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