静かな鳥

きみと、波にのれたらの静かな鳥のレビュー・感想・評価

きみと、波にのれたら(2019年製作の映画)
3.2
【試写会にて】
「あの湯浅政明がこんなにどストレートなラブストーリーを作るなんて!」という驚きがまず始めにある。予告編の時点で既に画面から溢れんばかりに漂う"リア充"感。それを心の狭い私は「けっ」と心の中で毒づきながら鑑賞したけれど、これはこれでアリ。公開されたら恐らく好き嫌いがはっきり分かれる気がするが、"湯浅監督らしからぬ可愛らしい小品"という心持ちで見ればそれ相応には満足感がある…はず。

絵に描いたようにラブラブでキラキラとした主人公カップルのひな子と港。そのイチャイチャっぷりを延々と見せつけられる前半はかなり辟易させられるんだろうと思いきや、湯浅監督特有の画のタッチを通して描出されることで二人ともチャーミングさが宿り、こちらも微笑ましく見守ることが出来るという不思議。いやまぁ「ご飯食べてる時も手を繋いでいたいから、左手を使って飯を食べる」などとひな子がぬかすくだりで私の目は見事に死んでいたと思うが。デュエットシーンも無駄に長い。あと、少女漫画実写化作品でよくある「僕じゃダメですか?」というセリフをまさか湯浅作品で耳にする日が来ようとは!

何よりストーリーラインは直球でベタな恋愛ファンタジーの展開をなぞりつつも、アニメーション自体はどこを切り取っても湯浅節全開、というのが非常にフレッシュ。冒頭から、彼らしい目眩のするようなパースとグワングワンしたカメラワークが炸裂する。ひな子が自転車で家に帰る序盤のシーンでの、魚眼レンズ風ショットとか堪らない。とある食べ物の作画についても、かなり拘りを感じる。

また、本作では"波にのる"という行為が最初から最後まで一貫してキーになっている。"波にのれる/のれない(のる/のらない)"が、そのまま登場人物の心の浮き沈みにシンクロする作劇。サーフィンが得意だが将来の自分に自信の持てないひな子は、言い換えれば"海では波にのれても、地上では人生の波に上手くのれずにいる"わけで。そんな彼女が港との関係性の変容や悲劇を経て水中へと沈み、苦しみの渦中から抜け出し浮上してこの世界を受け入れ、再び"波にのる"までをシンプルに描き切る(やけにシンプルすぎるきらいはある)。全体的にポンポンとテンポよく話が進むので退屈さもない。ただ、テーマそれ自体は悪くないとはいえ、核心をつくような親切設計のセリフがあまりに多いのは難点。それほど説明を重ねずとも観客は理解できる。

そしてこの映画最大の問題点が、GENERATIONS from EXILE TRIBEによる主題歌の用い方だ。本作は話の設定上、この曲が劇中で幾度も流れる。本編始まってすぐさま流れ始め、それからも何度も何度も…。正直くどい。上映前にも試写室でエンドレスリピート再生されていて、耳にタコができるほど聞いた。もうこれはある種の洗脳に近い。別に曲そのものに罪はないが、これでは幾ら何でも作品全体の印象を悪くしてしまうのでは。
加えて、今までの湯浅作品に比べクライマックスの爆発的ダイナミズムが希薄。そこに至るまでのレイヤーの積み重ねはあるが、単純に"いつもよりアクションのスケールが小さい"感じで物足りない。残念。

一昨年の『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』の配給が「東宝映像事業部」だったのに対し、本作の配給は「東宝」。ということはつまり、公開規模もこれまでより拡大するのだろう。このことからも、監督が過去作より万人に開かれた作品を目指そうとしていたことは窺える(それが成功しているかどうかは別として)。とりあえず湯浅監督にはこの作品を"助走"として、今後メジャーのど真ん中で『マインド・ゲーム』みたくクレイジーな作品をぶっ放してくれるのを願ってやまない。
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