アオヤギケンジ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのアオヤギケンジのレビュー・感想・評価

4.2
悪魔が味方のフリをして近付いてくる映画。
非常に重厚な映画だが、たくさん人が死ぬのでその展開の早さに圧倒されて3時間20分という上映時間の長さは感じない。長文です。
キング(デ・ニーロ)が常に善人の顔をしてオーセージ族の富を搾取し続ける一方、アーネスト(ディカプリオ)は欲望に忠実で、正直かなり頭が悪い。そのためキングは常にアーネストを操っているのだが、肝心のアーネストは都合の良いように操られていることに気付かないどころか、キングを恩人であるとすら思い込む。
今作は先住民であるオーセージ族連続殺人事件という実話を元にしており、観る限り脚色も極力抑え、史実に忠実な物語を語ろうとしているように思える。自分は不勉強なのでこの陰惨な事件のことは知らなかったが、今作をエンタメとして消化するような作品にはしないようとしている工夫は随所に見られ、特に最後にラジオでこの事件を語る辺りは、そうやって事件をエンタメとして消化してきた白人に対する自戒のようにも見える。
話を物語に戻すと、キングがアーネストに求める行動は基本的に2択である。やるか、やらないかだ。しかしその2択の提示の仕方が巧妙なため、頭の悪いアーネストは、自分で考えて行動しているように思ってしまう。
アーネストはどこで間違ったのだろうかと考えると、それはもうキングと出会った瞬間からなのだが、観客もアーネスト自身も、おそらくキングと出会った瞬間からその選択は間違えて(操られて)いたんだとはなかなか気付けない。いつの間にか、なのだ。悪魔はいつの間にか近付いてきて、悪魔なのだと気付いたときにはもう引き戻せない地点まで進んでしまっているのだ。
そしてキングは映画の中だけの存在ではない。キングは「あの映画のキングだ!」などとは気付かないうちに隣に居て、キングだと気付いたときにはもう遅いのだ。