人間代表

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの人間代表のレビュー・感想・評価

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文句なしの傑作。大きな目標や、身を切るようなサスペンスによっては駆動されず、むしろ目標や確固たる意思といったものを決定的に欠いた情けない男が主人公の本作、3時間半という長尺ながら、神がかったコンティニュイティによってただのワンショットも無駄に感じさせない。むしろショットが切り替わって時間が飛んで物語が進行していることすら感じさせないプレーンさがこの作品の凄み。

いつか殺されるかもしれないというモリーンの恐怖は、この映画における死のあっけなさと悼む者の長く続く悲痛というコントラストによって強調されていて、かなり辛かった。

ハタから見ればディカプリオもデ・ニーロも同じ二重性を持っているのだが、デ・ニーロが完全に二枚舌のカスジジイだったのに対して、ディカプリオは本当に妻を愛していたのだなということがわかる。やってることは本当にわけわかんないしカスなんだけど、普通に怖いですが!その上で妻との最後のシーン、彼は本当にインスリンが効くと思って投与していたと同時に、追加の毒についてはついぞ打ち明けることができなかった。結局彼は自己の二重性を最後には破りきることなく、妻との関係を終えてしまう。最後の最後まで貫かれるこの男のしょうもなさ、情けなさをディカプリオが完璧に演じていてすごい。最初は捜査官の役だったが脚本を読んでこの役を希望したらしく、流石わかってるなと思った。

そして最後、正義の勝利を高らかに歌いあげるショーとともに語られる後日譚のシーンにおいていきなり観客に銃口が突きつけられてかなりビックリする。ややメタっぽくていやらしい演出と見る向きもあろうが、「実際にあった仰天事件ファイル」的な消費にはさせておかないという製作者の意思が見られて、意義のある演出だと思う。
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