はぐれ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのはぐれのレビュー・感想・評価

4.2
アメリカの赤黒く血塗られた侵略の歴史をスコセッシ×デニーロ×ディカプリオが200分を超えて描ききる野心作。

先住民のオセージ族の持つ石油利権に群がる白いパラサイト集団。アリ・アスターの『ミッドサマー』じゃないけど、冒頭から幾度となく映り込む白人達の生気のない笑顔がとにかく不気味で恐ろしい。そしてその鉄仮面が物語が進むにつれて徐々に剥がれていく老獪な演出。もちろんそれを体現するのは監督の長年のパートナーであるデニーロ御大。やっぱり悪役のボスをやらせたら御大には誰も敵わないのよ。屈託のない笑顔から敵意に満ちた悪人の顔になるまでのグラデーションの見事なこと。近年で最高のお仕事ぶり。

そしてその悪の親玉と物語の上でも演技の面でも対峙するのがモリー役を演じたリリー・グラットストーン。白人達の笑顔の鉄仮面に反してこちら終始笑顔のない仏頂面。しかしその制約された表情筋の中で喜怒哀楽を細かに表現し切る演技力に脱帽。夫を演じるディカプリオから「インスリンだよ」と告げられた時の諦めに似た絶望の顔が切ない…

今作の裏のテーマはもしかしたら名誉の回復かもしれない。それをラストシーンで確信した。先住民に対する白人側からの懺悔という面も制作意図にもちろんあっただろうし、ディカプリオが妻に対して過去の非道を詫びるアプローチもそうだし、何より監督のスコセッシが過去に着せられた最大の汚名である黒澤明監督作の『夢』に出演した時のあのゴッホ役。あの時の自身の演技に対する名誉の回復をしたいという想いが実は裏にあったのではないかと邪推してしまう。ブルックリン訛りのゴッホにハリウッドの映画関係者が大爆笑だったというあの忌まわしき黒歴史ね(笑)
だからエンドロールのキャスト欄にもしっかりスコセッシの名前が記してあるのを見つけてなんか泣けてしまったのよ。監督!今回は誰にも恥じることのない素晴らしい演技でしたよ!😢
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