荒野のジャバザハット

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの荒野のジャバザハットのレビュー・感想・評価

4.2
スコセッシの悲哀な暴力映画は凶暴な人間達の行動に痛快さを見せるが今作は余りにも重いテーマもあってか高揚感を覚える描写は殆どなく、今までの作品とは一味違うように思えた。
先住民族の地と血を荒らし吸血鬼の如くじわじわと苦しめる展開には目も当てられないが勿論目は離せられない、スコセッシの映画だから。
医療機関から保安官までもを牛耳りその地に帝国を築き、血を絶やし至福を肥やす事のみを考えるデニーロ演じるヘイル。リジーQの病死を今か今かと待ち侘びながら背後に立つ姿は死神そのもので本当にゾッとさせられた。
モーリーの元にも訪れるあの世からの迎えとして登場する梟の描写の怖さとその後に訪れるヘイルの幻覚により彼が死神そのものであることは明白だ。

アイリッシュマンで板挟みにより自分を持つ事をせず死を待つ男を演じたデニーロ、今作ではディカプリオへバトンタッチし、自身の愛よりもホワイトウォッシュに手を伸ばし、自分自身に流れる血液ではなく民族的血液を生かす事を選択してしまう。その選択の代償は余りにも大きく全てを失ってしまうこの流れもアイリッシュマンとよく似ている。

休廷中に集まった白い略奪者達の集合風景、写真には写せない黒く澱んだビジュアルが脳裏に焼き付く。
彼らが綴ったインディアンブックを渡されて始まる今作、漂白された物でなくリアルを残す、そんな思いでカタルシスを極端に抑え仕上がった一本なのかもしれない。

3時間30分充実した時間になった。